日本語は生きている 〜脈々と受け継がれているもの〜 工学部 堀尾佳以 講師

2023年12月25日

若者言葉を紐解く

 2023年12月1日、今年の「新語・流行語大賞」が発表されました。その中でも「蛙化現象(=好きだった相手に好意を持たれた途端、嫌悪感を抱いてしまう現象。心理学用語。)」や「ひき肉です(=YouTuber「ちょんまげ小僧」メンバー、ひき肉のあいさつ)」は若者の流行を捉えたものだといえます。

 年齢を重ねると難解(というより不可解)になる「若者言葉」。「最近の若いものは言葉遣いがなってない」「新しい言葉や表現が分からない」と言われることも多いです。でも、本当に「訳が分からず乱れたもの」なのでしょうか。

一度は使ったことがあるあの言葉の語源は?

ここで皆さんに質問です。

「今日は授業を(  )って家で寝てた。」 =授業に出ないで
「あいつは掃除となると、いつも(  )るよなぁ。」 =いつもやらない/来ない

この(  )に入る共通の言葉は何でしょうか?

 正解は、【(サボ)って/(サボ)る】のようにどちらも「サボ」が入ります。じゃあこの「サボ」って何からきているのでしょうか。実は大正時代に流行した「サボタージュ=sabotage」が語源と言われています。「故意に仕事を停滞させたり、過失に見せかけて機械を破損するなど、経営者に損害を与えて解決を促す、労働争議の戦術」という意味とされ、略語の「サボ」が流行し、それを動詞化したものが「サボる」です。そこから変化して「授業や仕事などを抜け出して休む」という意味で使われるようになりました。
 授業を「サボった」ことはなくても、「サボる」という言葉の意味は知っているし使ったこともあるという方が大半かと思います。でも、その語源が外来語(しかもフランス語)ということまでご存知の方は少ないのではないでしょうか。


コピーを焼くとは?

次に、会社の上司(年配者)と若手社員の会話を見てみましょう。


 このように、若手が理解してくれれば良いのですが...読者の皆様は「コピーを焼く」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。
 1950年代、オフィス向けの青写真による複写機が登場した際、青写真は元の書類と感光紙を重ねて化学反応により複写したことから「青焼き」と呼ばれていました。そのため「焼く」という動詞が使用されていたのですが、1970年代になると普通紙複写機が出たことから「コピーを取る」が主流となります。そして外来語に「する」をつけて「コピーする」と言われるようになりました。「する」をつけて動詞化する方法以外にも、先ほどの「サボる」のように「る」をつけて動詞を増やす方法もあります。更に、コピーを省略して動詞化する「る」をつけた「コピる」が出てきて定着しました。
 ちなみに1970年、「コピーを焼く」を使う世代の方が20歳だったとして、2023年現在は73歳ですので定年を迎えていらっしゃる計算です。そう、現在ではもう「コピーを焼く」と言うことも聞くこともほとんどないのではないでしょうか。



~る の一般化

 では、「告白する」という意味の「こくる」はどうでしょう。聞いたことがある、そして使ったことがある方もいらっしゃるでしょう。これは1999年に、ある音楽番組に出ていた歌手(当時15歳)が使っていました。当時大学生だった私は、この言葉を聞いて衝撃を受け、「る」で作った動詞を収集・分析しました。実は、これが若者言葉の研究を始める入り口でした。
 ちょっとだけ専門的なお話をすると、収集した動詞化「る」の483語のうち、「サボる」や「コピる」「告る」など3拍の語彙が圧倒的に多いのです。次に多いのは4拍のもので、長すぎるものはあまりありません。

動詞化「る」の拍数

引用:堀尾佳以.若者言葉の研究──SNS時代の言語変化──.九州大学出版会,2022年,p.35




人の名前にも ~る(⁉)

 そして、どんな語幹につけられるのかというと、外来語だけでなく名詞や固有名詞につけられることが多いという結果が出ました。

動詞化接尾辞「―る」の語幹になった品詞

引用:堀尾佳以.若者言葉の研究──SNS時代の言語変化──.九州大学出版会,2022年,p.30


 名詞で言えば「事故る(=事故にあう)」や「ブタる(=ブタのように太る)」などがあります。
 固有名詞となると日常的に若者が通う「マクる(=マクドナルドに行く/で食べる」「デニる(=デニーズに行く)」のように、生活密着型のものが多く見られます。他にも、「江川る(=巨人に入団したかった江川氏がごねた事から駄々をこねるの意)」や「安倍る(=2007年の安倍首相退任から、自分の責任を全て放棄してしまい、逃げること)」など、その言葉が流行った当時、特に話題となっていた出来事が動詞化されることもあります。


言葉は受け継がれている

視点を変えて、「コピる」を活用してみましょう。

コピ(   )ない/コピ(   )ます/コピ( る )/コピ(   )ば/コピ(   )う

いかがでしょうか。簡単だったかと思います。答えは
コピ( ら )ない/コピ( り )ます/コピ( る )/コピ( れ )ば/コピ( ろ )う

 実は、日本語を学んでいる外国人(日本語学習者)にとって、この活用は難しいのです。「どの活用グループですか?」と聞かれます。でも、日本語ネイティブであれば難なく活用できる、つまり国語文法でいうところの五段活用で正答を導けるのです。

 「息をするのと同じように、難しく考えることなく正しく活用できる」って、凄いことじゃないでしょうか。これは外来語に「る」をつけた動詞は五段活用をする、というルールを、皆さんが先代から受け継ぎ、次の世代に繋げていったからに他なりません。ですので、「ググる(=Googleで検索する)」や「タピる(=タピオカを飲む:もう既に死語だとか)」、「バズる(=Buzz:ハチが群がっている様子から、ひとつの話題に多くの人の注目が集まっている状態を指す)」など、一般化した「新しい言葉たち」を面白がってみませんか。そして一度聞いただけでは分かりづらい「ギョプる(=サンギョプサルを食べる)」などのようにK-Popや韓国文化の流行を言葉にも取り入れている若者の、柔軟かつ斬新な感性を受け入れ、自分たちの時代に流行ったものや使っていた言葉を振り返るきっかけにしていただけると嬉しいです。


日本語は変化し続ける

 みなさんが何気なく話している「日本語」。おそらく、「今、日本語を話している!」と自覚してお喋りされることはほとんどないかと思います。若者たちも「これ若者言葉だよね!」と自覚して話していることはなく、「面白いから」「かわいいから」「友達と盛り上がるから」といった感覚で言葉を選び、使っていると考えられます。いつか社会に出て年を重ねた時には若者言葉を使わなくなるでしょう。そして年を重ねれば「そういえば昔は使ってた!」という言葉(例:チョベリバ、まいうー)に出会ったり、「それ今も使うよ」というもの(例:ほぼほぼ、よきよき)を見聞きすることもあるかもしれません。年代によって思い浮かべる言葉は異なるかと思います。その違いこそが日本語が変化することの面白さと言えるでしょう。

 日本語は生きていて、常に変化を続けています。若者言葉や流行語はその変化の一端であり、日本語が生きている証拠なのです。

 次回も若者言葉にスポットを当ててお話ししたいと思います。若者言葉には若者のポジティブなマインドが隠れてる!?その真相をお伝えします。





著者プロフィール 堀尾 佳以 講師

堀尾 佳以 (ほりお けい)
講師
工学部 留学生担当専任

博士(芸術工学)。専門は日本語学。北見工業大学国際交流センターを経て現職。著書に『若者言葉の研究 SNS時代の言語変化』(九州大学出版会)があり、若者言葉について各種メディアの取材対応も多数。

※記事の内容、著者プロフィール等は2023年12月当時のものです。