栃木県の地方創成における宇都宮大学の役割
栃木県経済同友会筆頭代表理事
小林 辰興氏
国立大学の法人化から13年目を迎えた今年4月、第3期中期目標・中期計画期間がスタートしました。
宇都宮大学では、"地域に学び、地域に返す、大学と地域の支え合い"という姿勢を大切にし、地域の「知の拠点」として変革をリードするため、本学が目指す4つのVisionと5つの重点戦略をまとめた「宇都宮大学アクションプラン2016」を策定しました。この機に、栃木県の経済界を牽引する栃木県経済同友会小林辰興筆頭代表理事をお招きし、本学の人材育成における地方創生の役割について、対談いただきました。司会進行役は本学藤井佐知子総括理事(企画・広報担当)です。
アクションプラン2016
- 藤井理事
- 本日は、栃木県経済同友会小林辰興筆頭代表理事をお招きし、「栃木県の地方創生における宇都宮大学の役割」をテーマとして、石田学長と対談いただきたいと思います。本学では地域の「知の拠点」としての役割を果たすべく、様々な施策を進めておりますが、まず、石田学長より、第3期中期目標・中期計画期間を迎えるに当たり本学で策定した「アクションプラン2016」についてお話し下さい。
- 石田学長
- 「アクションプラン2016」は、今年度から第3期中期目標・計画期間(平成28?33年)がスタートするにあたり、今後6年間で宇都宮大学が取り組んでいく施策を、教職員や学生・保護者、学外関係者に理解いただきたいという願いで策定しました。これは、昨年度末に高い評価を受けて運営費交付金の増額につながった改革構想「5大戦略」を実践するための具体的な方針で、基になっているのは「第3期中期目標・計画」です。これから教職員と共に中期目標・計画を着実に実施し、更なる宇都宮大学の発展を目指していく際の行動計画として教職員に共有してもらいたいと考えています。
- 小林筆頭
- 「5大戦略」の下で宇都宮大学は正に時代の流れを捉え、地域の課題を分析できる機能を持った「知の拠点」となっているので、そこで学ぶ学生には今後の栃木を牽引していただきたいと、経済界として大きな期待を寄せています。地域の課題、例えば人口減少や少子高齢化等の構造的な問題に立ち向かい、地方創生を実現するためには、積極的に取り組む姿勢と若い方々の活躍が必要不可欠だからです。
「地域デザイン科学部」におけるまちづくりのプロの養成
- 藤井理事
- 「5大戦略」の一つに地域の知の拠点形成がありますが、全国に先駆けて設置した文理融合型の「地域デザイン科学部」を起点とした、まちづくりを支える専門職業人の育成・地域との共創機能の強化について、どのようにお考えですか。
- 石田学長
- 栃木県は、豊かな自然環境の下で農業から工業まで各産業がバランス良く発展し、中核市である宇都宮市をはじめとする地方都市と、日本の原風景である農山村や里山が配置された、さまざまな面で豊かな地域と言えます。しかしながら社会環境が急速に変化し、栃木でも地域社会の活力が低下しつつあることを実感する中で、そこをホームグラウンドとする国立大学としてどんな貢献ができるのか、そんな自問が地域デザイン科学部設置に向けた出発点でした。
- 小林筆頭
- 確かに栃木県は農業・工業の産業をはじめ、地方都市と農村まで抱え日本の縮図ともいえますね。当会でも、社会的な課題を解決していくため、10の委員会・研究会等がそれぞれテーマを定めて情報を収集・分析し、解決策やその方向性を導き出し、関係機関に提言をしていくという取り組みを行っています。
- 石田学長
- 確かに栃木県は農業・工業の産業をはじめ、地方都市と農村まで抱え日本の縮図ともいえますね。当会でも、社会的な課題を解決していくため、10の委員会・研究会等がそれぞれテーマを定めて情報を収集・分析し、解決策やその方向性を導き出し、関係機関に提言をしていくという取り組みを行っています。
- 藤井理事
- 経済同友会では、他にも様々な提言を出され取り組みを進めていると思いますが?
- 小林筆頭
- 当会では取り組みの一つとして、「2040年の豊かな栃木」を創造していくための「夢計画」づくりがあります。県の試算では、150万人を割り込んでしまう県人口を、現人口(200万人)を更に上回らせるために、夢で終わらない「夢計画」を作る取り組みです。そのためには、県の産業の実態であるとか、歴史・文化、東京からのアクセスの優位性等様々な観点からアプローチしています。計画の検討の場には、宇都宮大学地域デザイン科学部の先生や学生の方々にもご参加いただいています。
- 石田学長
- 素晴らしい取り組みですね。本学には社会と学問の繋がりを強く意識した「実学の伝統」があります。こうした伝統を受け継ぎながら、社会の変革を担う「行動する知性」と良識を備えた人材、言い換えれば知行合一の人材を輩出すること、そして今まで以上に「地域の知の拠点」としての機能を強化し、地域に寄り添いながら着実に教育研究を進めることにより、地域の活性化に貢献したいと考えております。こうした取り組みには本学各学部の有機的な連携を一層進め、協力してまいります。また、例えば先ほどお話しいただいた経済同友会の取り組みと同様、人口減や高齢化が進む地域においては、最適な空間とコミュニティの形を科学的に探求し、現実的な課題解決策の提示、現場対応力を身につけた人材の輩出、こうしたことが地域デザイン科学部のミッションであると考えています。
- 小林筆頭
- 学長の言われるような、最適な生活空間とコミュニティの形を科学的に探究し、現実的な問題解決の提示に向けての取り組みが、既に始まっているということですね。今後、宇都宮大学各学部の有機的な連携がさらに強化されれば、当会の「夢計画」が「基本計画」「実施計画」へと引き継いでいける大きな後押しとなっていただけるのではないかと思います。まさに「地域デザイン科学部」の目指すべき方向は、時代の要請に的確に応えようとするものであり、当会としても大いに期待しています。
輝くとちぎをリードする人材育成地元定着推進事業
- 藤井理事
- 次に、種々の社会問題が深刻化し、誰もが将来に不安を感じずにはいられない中、こうした状況を打開しようと、「地方創生」のための様々な取り組みが、日本全国で推し進められております。「地方への新しい人の流れ」をつくり、意欲と能力のある若者が地域に残り活躍する環境を実現するには、雇用の創出に加え、地方の大学が一層活性化し、より多くの若者を惹きつける存在となることが重要です。そうした社会的要請に応えるため、この度、宇都宮大学は、文部科学省が平成27年度に創設した「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」を活用し、専門の組織を新たに設け、「輝くとちぎをリードする人材育成地元定着」をテーマとした事業を展開しております。
- 石田学長
- この事業では、地域と共に発展を図る大学として、これまで取り組んできた、高度な専門知識を身に付け、イノベーション創出に資する人材及びグローバル化に対応できる人材の育成に加えて、とちぎを理解し、とちぎの産業の発展に貢献できる人材、とちぎの魅力を開発し発信できる人材を育成し、地元定着化を進めることとしています。特に、栃木県の特徴である「フードバレーとちぎ」「ものづくり県とちぎ」に焦点をあてた農学的、工学的、そして農工融合分野における理系人材の育成と地元定着を進めます。
- 小林筆頭
- 学長がおっしゃった「とちぎを理解・とちぎの産業発展・とちぎの魅力発信」これらを担う人材の輩出は、次世代への事業承継・技術伝承を課題とする産業界にとって、最も待ち望んでいる事です。そして優れた人材を要する地元企業と、就職する学生とのミスマッチをなくす仕組み作りも重要と考えています。
- 石田学長
- ご期待に添えるよう取り組んでいきたいと思います。本取り組みではさらに、育成した人材を中心として共同研究が推進され、栃木発の新技術・新商品が次々と開発されるなど、イノベーションを創出することで、県内企業ひいては栃木県のイメージアップが図られ、そのことで更なる優秀な学生が県内産業へと向かうという好循環に繋げていくことを狙って、栃木県経済同友会をはじめとする多くの経済団体や栃木県にも参加いただいています。またUターン・Iターン促進を念頭に県内大学のみならず東京圏の大学にも参加をお願いしています。
という好循環に繋げていくことを狙って、栃木県経済同友会をはじめとする多くの経済団体や栃木県にも参加いただいています。またUターン・Iターン促進を念頭に県内大学のみならず東京圏の大学にも参加をお願いしています。
- 小林筆頭
- この事業に関しては当会も積極的に参加させていただくことにしました。会員が授業の一端を担わせていただき、学生の方々には栃木県の産業の実態等をご理解いただこうと考えています。学長のおっしゃるとおり栃木県のイメージアップを図ることができれば、優秀な人材の確保や雇用拡大や観光復興など、業界間の相乗効果をもたらし、ひいては栃木県経済全体の底上げ=地域創生につながりますね。
- 石田学長
- はい。宇都宮大学は、今まで以上に地域との繋がりを深め、地域産業、地域社会を担う人材の養成を通して「地域を元気にするエンジン」になりたいと思っています。
- 石田学長
- 他県の国立大学でも活発な動きがあるようですが、是非、栃木県が他県に誇る先進事例となるよう、産学官金労言のオール栃木にて盛り上げていきましょう。
「とちぎグローバル人材育成プログラム」及び「トビタテ!留学JAPAN地域人材コース」
- 藤井理事
- 続いて、「とちぎグローバル人材育成プログラム」についてお話いただきたいと思います。これは大学コンソーシアムとちぎの事業で、各教育機関から本プログラム用のグローバル人材育成関連科目を提供いただき、学生はグローバル人材としてのリテラシーを学びます。さらに科目受講等の申請要件を満たした学生には、海外留学・海外インターンシップへの経済的支援を行い、社会のグローバル化に柔軟に対応でき、かつ積極的に活躍できる人材を育成することを目的としています。本取り組みについて、石田学長からお話し下さい。
- 石田学長
- 「とちぎグローバル人材育成プログラム」は、平成26年度から栃木県経済同友会及び栃木県のご支援、ご協力をいただき、大学コンソーシアムとちぎ所属機関の学生向けに始めたもので、今年度は41科目開講し、延べ150名以上の学生が受講し、また49名の学生の海外活動に経済支援が行える予定です。
- 小林筆頭
- 「とちぎグローバル人材育成プログラム」については、プログラムの作成や講師派遣など協力を行ってきました。今後とも積極的に協力していきますが、まだ参加大学に偏りがありますね。
- 石田学長
- はい。栃木県内の全ての大学へ内容の周知徹底を図り、県内のより多くの学生が参加できるようにしていきたいと考えています。また、昨年度になりますが、文部科学省が取り組む「トビタテ!留学JAPAN 地域人材コース」に採択されましたが、これには地域の高等教育機関、自治体及び企業や経済団体の協力が条件であり、栃木県経済同友会及び栃木県による財政支援をいただいたお陰で採択をいただくことができました。
- 小林筆頭
- 「トビタテ!留学JAPAN 地域人材コース」については、同友会も公益事業の一環として参画し、文部科学省への申請段階から、栃木県や大学コンソーシアムとちぎと連携してプログラムの作成に携わり、資金面の支援はもとより、会員企業のネットワークを有効活用し、海外及び国内のインターンシップの受け入れ先の協力なども行いました。東日本で唯一の採択ということで、画期的で、大変喜ばしいことでありました。
- 石田学長
- 本当にありがとうございます。引き続きご支援、ご協力をお願いいたします「トビタテ!留学JAPAN地域人材コース」は、「とちぎグローバル人材育成プログラム」の上級コースと位置づけ、昨年度は5名の派遣学生が、タイ、イギリス、香港、台湾と様々な国へ半年以上の留学をすることができました。今年度は12名の応募者の中から、3名を派遣学生として決定し、アメリカ、カナダの2ヶ国へ留学する予定です。派遣学生は、海外においては大学等への留学及び実践活動を行い、その前後に県内企業等へのインターンシップを行います。学生が、グローバルな視点で物事を捉え行動し、栃木県の活性化に貢献できるようになるものと確信しております。
- 小林筆頭
- 本プログラムによって、栃木県の活性化に貢献するグローカル人材が継続的に輩出されることを期待しています。また、今後は当会のみならず県内の多くの企業の賛同を得て、継続的・発展的なものとなることを期待しています。
- 石田学長
- おっしゃる通り、本プログラムは地域の担い手、グローカルに活躍できる人材の育成で、国が地方創生の観点から行っている様々な取り組みに通じるのではないかと考えており、広く県内の企業の皆さんにもご理解頂けるよう務めて参ります。
- 小林筆頭
- グローバル人材育成は、オール栃木体制で取り組んでいくことが求められていますので、当会としては引き続き役割を担ってまいりたいと考えています。
3Cものつくり経営基礎講座(MOT経営工学講座)
- 藤井理事
- 昨今のグローバル化への加速とガラパゴスからの脱却のために、産業界には大きな飛躍が求められています。このような状況に立ち向かうために、宇都宮大学ではイノベーションに注目したビジネスシステムや差別化技術の開発が必要であると考え、本講座の提供を行いました。本取り組みについて、石田学長からお話し下さい。
- 石田学長
- 宇都宮大学は、農業を含むすべての産業のものつくりに従事する社会人に対して、ものつくり開発を進めるために必要となる経営学や経営工学、自らの開発に必要となるマネジメントプロセスなどを広く学べる、学び直しの場を提供したいと考えてきておりました。
- 小林筆頭
- 産業を取り巻く環境は日々めまぐるしく変化し、現在では、ICTやAI(人工知能)の活用等で研究が急ピッチで進んでいます。また、日本の製造業の生産性の低さが叫ばれ、働き方改革や長時間労働の是正等様々な課題が浮き彫りとなっています。そのような中、生産性の向上等を目的とした当講座の必要性は高まっており、学び直しの場は、現状の経営手法を見直す機会となり、新たな経営手法の創出へと繋がると思っています。
- 石田学長
- そこで、2010年より栃木県産業界や官界からの支援を受け、延べ600名を超える受講生を輩出した「栃木県産学官連携経営工学講座」を発展させ、今年度から次世代人材の育成のために「3Cものつくり経営基礎講座」を開講しました。ものづくり現場に従事される方々にとって、将来の技術経営のプロフェッショナルに成長する足がかりになればと思っています。
- 小林筆頭
- この趣旨に賛同する当会会員も自らが教壇に立って、実践を踏まえた内容の講義を担当させていただいていますが、このことは自らの経営を振り返る好機ともなっており、引き続き連携させていただきたいと考えています。栃木県は、国内でも有数のものづくり集積県であります。是非とちぎの製造業の生産性向上のため、今後も講座の発展を期待しています。
- 石田学長
- ご支援・ご協力、本当にありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。
- 小林筆頭
- ところで、先日の報道で宇都宮大学が世界980大学の中にランクインしたと伺いましたが。
- 石田学長
- はい、イギリスのTES Global社による、世界で最も影響力のある大学ランキングと言われていますが、ここに国内の69大学の一つとして旧帝大や有名私大と一緒にランクインできました。相対的に研究力が強い医薬系などの学部を持たず、しかもコンパクトな大学としては大健闘だと思っています。今後とも、地域からは元よりグローバルにも評価される大学として教育・研究・社会貢献の力をつけていきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
- 小林筆頭
- 大いに期待しています。
- 藤井理事
- 話が盛り上がり、予定の時間がかなり過ぎてしまったようです。小林筆頭代表理事、本日はお忙しい中、お時間をいただき、本当にありがとうございました。