トピックス

メディア 研究

[プレスリリース]動植物に共通の精子形成メカニズムの発見 ~DNAのひずみをほどく酵素が正常な精子の形成に機能~

【発表のポイント】
・コケ植物ヒメツリガネゴケにおける精子形成の過程で細胞核が同調的に収縮
・DNAのひずみをほどく酵素が精子細胞核の同調的な収縮に必要不可欠
・DNAのひずみをほどく酵素は動物の精子形成にも機能することが知られており、動植物に共通の精子形成メカニズムを発見
・植物の雄性不稔・動物の雄性不妊メカニズム解明への貢献が期待される

■研究概要
 宇都宮大学の顾 南(顧 南、グ ナン)日本学術振興会外国人特別研究員、玉田 洋介 准教授は、基礎生物学研究所の長谷部 光泰 教授、華中農業大学の陈 春丽(陳 春麗、チェン チュンリィ)教授らとの国際共同研究によって、DNA2重らせん構造のひずみをほどく酵素DNAトポイソメラーゼ1がコケ植物ヒメツリガネゴケにおける正常な精子の形成に機能することを発見いたしました。
 研究グループはヒメツリガネゴケにおける精子形成過程をバイオイメージングによって詳細に観察し、3次元画像解析を行った結果、DNAが存在する球形の細胞核が精子形成の過程で同調的に著しく収縮し、ひも状の細胞核となることを解明しました(図1左)。このひも状の精子細胞核は、水などの液体中を泳いで卵細胞に到達するために適したコンパクトな精子胴体部を形成するために必要不可欠であると考えられます。さらに、DNAトポイソメラーゼ1遺伝子をなくしたヒメツリガネゴケでは、この同調的な細胞核の収縮が起こらないことがわかりました。その結果、精子が放出される段階でも、ひも状の細胞核を持つ精子はごく一部にとどまり、ほとんどの精子は球形か不完全に収縮した細胞核を持っていました(図1右)。そして、受精効率は著しく低下しました(図2)。
 動物の精子形成過程においてもDNAトポイソメラーゼ1が精子細胞核の収縮に機能することが示唆されていましたが、はっきりとはわかっていませんでした。本研究によって、動植物に共通の精子形成メカニズムが発見され、さらに植物の精子形成過程におけるDNAトポイソメラーゼ1の機能を詳細に明らかにすることができました。この結果は、動植物に共通するコンパクトな精子細胞核の形成機構の解明に寄与するとともに、植物の雄性不稔・動物の雄性不妊メカニズム解明への貢献が期待されます。

 本研究成果は、1月25日、学術誌「New Phytologist」に掲載されました(オンライン版で公開されました)。 

図1

図1:ヒメツリガネゴケ野生株(左)とDNAトポイソメラーゼ1遺伝子をなくした株(右)の精子細胞核
造精器被覆層細胞に囲まれた内部(白矢印の部分)に観察されるのが精子の細胞核。野生株(左)ではほとんどの細胞核がひも状に収縮していた。一方、DNAトポイソメラーゼ1遺伝子をなくした株(右)ではひも状に収縮した細胞核はほとんど観察されなかった。バー:10 µm(1 mの十万分の一)。



図2

図2:受精を誘導した後のヒメツリガネゴケ野生株(左)とDNAトポイソメラーゼ1遺伝子をなくした株(右)
野生株(左)ではほとんどの茎葉体に受精の結果形成される胞子のう(一部を白矢印で示す)が観察された。一方、DNAトポイソメラーゼ1遺伝子をなくした株(右)ではほとんど胞子のうは観察されず、受精が失敗した結果形成される多数の造卵器が観察された。バー:2 mm。


詳細はこちら(PDF)をご覧ください。


<本件に関する問い合わせ>
国立大学法人 宇都宮大学 学術院 准教授 玉田 洋介
TEL:028-689-6133
E-mail: tamada※cc.utsunomiya-u.ac.jp
(※を半角@に置き換えてください)