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[プレスリリース]深層学習を活用したMRIの撮影時間の高速化と高品質化

【発表のポイント】
●MRIの撮影時間短縮化と画像の高画質化を目指し、画像生成に深層学習を導入した。
●画像生成処理に必要な時間は、従来のAIによらない方法に比べて大幅に短縮された。
●深層学習の導入によって、生体内部の構造的特徴を描出する能力が向上した。

■研究の概要
医用画像診断装置であるMRIは、X線CTなどの他の装置と比較して、高品質な画像を得られる反面、1回の撮影で数十分単位の時間を要する課題がある。撮影の高速化法として、少数の観測信号から元信号を推定する圧縮センシングを応用する試みが一部実用化されている。圧縮センシングでは、MRI装置が患者から収集する信号を少数とすることで撮影時間の短縮化を実現している。しかし、圧縮センシングを応用することには以下の問題がある。
(1)撮影時間は短縮化されるが、その後の画像生成には数理的な反復処理を伴うため、再構成時間が長くなる ⇒ 撮影してから診断までのプロセスが長時間化する。
(2)生成された画像が人工的な様相を呈する ⇒ 微弱なコントラストが失われ診断への支障が懸念される。
本研究では、上記の問題の解決に向け、圧縮センシングにおける再構成処理を深層学習によって行う手法を提案した(図1)。シミュレーション実験の結果、提案法では画像生成処理の大幅な短縮化を実現することができた。また、反復的手法では再構成像が人工的となるような条件下でも、提案法では良好な再構成像が得られ、深層学習による画像再構成法の有効性が示された。

本研究成果は、学術誌「Magnetic Resonance in Medical Sciences」にオンラインで早期公開されました。

【図1】

■研究方法
本研究では、深層学習の一種である畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた画像空間上で完結する方法をベースにして画像再構成処理の高速化を図り、収集した信号の情報も活用することで、再構成画像の高品質化を図った。
CNNの学習が容易な再構成のアプローチとして、信号を間引いた際に画像に生じる"乱れ"に着目した。MRIでは、収集信号のフーリエ変換により画像を得るが、間引き信号のフーリエ変換像には、"乱れ"(折り返しアーチファクト)が発生する。この乱れが重畳した画像からCNNで乱れ成分のみを抽出し、「乱れのある画像 - 抽出した乱れ成分 = 再構成画像」の処理により乱れを取り除いた画像を生成した。
また、観測した信号の収集点における信頼度を高めるために、実際に収集を行った信号が存在する観測点では、その信号を置換する方法により、収集点では実信号を、非収集点ではCNNの推定によって復元した信号を利用することで、再構成像の高品質化を目指した。

■研究成果
信号の間引きによって生じた乱れを抽出できるようにCNNに学習させ、再構成シミュレーションを行った。また、本手法との比較のために、従来手法である数理的な反復再構成法も併せて行った。シミュレーションの結果、本手法では信号間引きによって撮影を高速化した条件のもとで、画像1枚あたりの再構成時間を従来手法の十数秒から0.022秒に短縮できた。また、信号量を60~70%削減した場合に従来手法では構造的特徴の欠損、乱れ成分の残存や強い平滑化が見られたが、本手法では目標画像に近い高品質な画像が得られた(図2)。

【図2】

■今後の展望
これまでの数理的な反復再構成法では、画像の品質低下を避けるために、信号削減量を50%程度にとどめることが一般的であった。本手法によれば、画像品質を維持しつつ、信号量のさらなる削減を行える可能性があることから、MRI撮影の高速化や、診断の高精度化が期待できる。今後は、より実用的な条件や制約下での再構成法を検討する予定である。

本研究の一部は、科学研究費補助金(19K04423)および柏森情報科学振興財団の助成により実施された。

■論文情報
(1)論文名:Reconstruction of Compressed-sensing MR Imaging Using Deep Residual Learning in the Image Domain
(2)雑誌名:Magnetic Resonance in Medical Sciences
(3)著者:Shohei Ouchi,Satoshi ITO
(4)URL:https://doi.org/10.2463/mrms.mp.2019-0139

■研究に関する問い合わせ先
伊藤 聡志
宇都宮大学大学院 地域創成科学研究科 工農総合科学専攻 教授
E-mail : itohst※is.utsunomiya-u.ac.jp
(※を半角@に置き換えてください)

大内 翔平
宇都宮大学大学院 工学研究科 システム創成工学専攻
E-mail : ultuchiboy※gmail.com
(※を半角@に置き換えてください)