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[プレスリリース]ニホンヤマビルの全国的な吸血動物を解明しニホンジカとの関係性を検証

 宇都宮大学配属の大学院博士課程学生森嶋佳織(東京農工大学連合農学研究科 (宇都宮大学配属))(当時)、同大農学部の逢沢峰昭准教授、京都大学大学院理学研究科の中野隆文准教授の研究グループによる、「ニホンジカの分布の有無とニホンヤマビルの吸血動物との関係性」に関する研究が、イギリスの国際誌Ecology and Evolutionのオンライン版に5月19日に掲載されました。

ポイント
・近年、日本各地で数が増え、吸血被害が増加しているニホンヤマビルの全国的な吸血(宿主)動物を明らかにした。
・ニホンヤマビルの最も主要な宿主動物はニホンジカであった。
・ニホンジカの分布の有無でニホンヤマビルの宿主動物の種類組成が異なり、ニホンジカの分布しない地域ではカエル類が重要な宿主動物であった。
・ニホンジカの増加以前はカエル類などから吸血していたニホンヤマビルが、ニホンジカの増加にともなって、宿主動物の対象をニホンジカに変えることでニホンヤマビルの近年の個体数の増加や被害拡大が生じた可能性が示唆された。

press_aizawa0626_01.jpg 研究の概要  1990年代以降、全国的にニホンヤマビル(ヤマビル)の個体数が増え、吸血被害が多数報告されるようになった。その原因として、ニホンジカ(シカ)などの大型哺乳動物の個体数の増加や分布拡大との関連性が指摘されている。過去にいくつかの県でヤマビルの吸血液に含まれるDNAを用いて吸血動物(宿主動物)を識別する試みがなされていた。しかし、当時の手法では、あらかじめ宿主動物の候補のDNAを調べて、それとヤマビルの吸血液中のDNAを比較することで宿主動物を識別していた。そのため、ヤマビルが実験者の想定しない動物から吸血していた場合、識別できないといった欠点があった。近年、様々な動物の膨大なDNA情報がデータベース化されている。そこで、ヤマビルの消化管に残る吸血液中のDNAの塩基配列を調べて、登録されているデータベースと照合する手法を用いた。この手法では、あらかじめ宿主動物候補を想定することなく宿主動物を識別できる。

press_aizawa0626_02.jpg 図1 ニホンヤマビル

 全国20県において、「ヒトおとり法」を用いて、林内を歩行しながら、手足に付着したヤマビルを採集した(図1)。そして、解剖して消化管に残る吸血液からDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAの一部の塩基配列を決定して、データベースから宿主動物を調べた。その結果、ヤマビル144匹の宿主動物を識別でき、1匹のヤマビルから1種類の宿主動物が識別された。その内訳は、シカが4割を占め、その他の哺乳類(ニホンカモシカ、イノシシ、ホンドタヌキほか6種)が約3割、カエル類(無尾目)を主とした両生類(ヒキガエル、タゴガエル類、ヤマアカガエルほか4種)が約3割を占めた(図2)。珍しい宿主動物として、ツキノワグマ、イタチ、アカイシサンショウオ、ノネコ、シマリス(外来種)があった(図2)。ヒトも数例みられたが、実験上の混入の可能性を排除するため解析から除いた。
press_aizawa0626_03.jpg 図2 全国におけるニホンヤマビルの宿主(吸血)動物

 本研究によって、全国的なヤマビルの宿主動物はシカであること、多くのヤマビルはカエル類からも吸血していることが初めて明らかになった(図2、3)。また、シカの分布する地域と、シカの未分布地域(秋田県、新潟県、群馬県北部)でヤマビルの宿主動物の種類組成が異なっていた。シカが分布する地域では、ヤマビルのカエル類の吸血利用が有意に減少する一方で、シカの分布が確認されていない地域では、カエル類が重要な宿主動物であった(図4)。これらのことから、シカの増加に伴い、ヤマビルの主要宿主動物がカエル類から接触の機会が増えたシカに変化することで、ヤマビルは繁殖のためのより高い栄養価の血液を得ることができ、結果としてヤマビル個体群の増加・拡大をもたらしたものと考えられた。このことは、昔からヤマビルの分布する地域では、シカの管理がヤマビルの分布拡大対策として有効であることを示唆している。
press_aizawa0626_04.jpg 図3 カエルの左足の指を吸血して膨らんだニホンヤマビル

press_aizawa0626_05.jpg 図4 ニホンジカの分布の有無が宿主動物に与える効果をモデル解析した結果
   星印が多いほど統計的に意味のある効果があることを示す。

本成果は、⽇本学術振興会科研費(JP17K20064/JP16K07768)の支援を受けて行われた。

論文名:Sika deer presence affects the host-parasite interface of a Japanese land leech.
雑誌名:Ecology and Evolution
著者:Kaori Morishima, Takafumi Namano, Mineaki Aizawa
URL:https://doi.org/10.1002/ece3.6344


(研究に関する問い合わせ先)
森嶋佳織
東京農工大学連合農学研究科 博士特別研究生
E-mail: morishimak19※gmail.com

逢沢峰昭 
宇都宮大学農学部森林科学科 准教授
E-mail: aizawam※cc.utsunomiya-u.ac.jp
(※を半角@に置き換えてください)