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[プレスリリース]深層学習を利用した新たなMRI画像向け雑音除去法を提案

【発表のポイント】
・磁気共鳴画像(MR画像)の上に重畳する雑音量に応じて雑音除去するブラインド除去に成功しました。
・複数枚のMR画像を重み付き加算平均し、雑音の分布を変化させてからブラインド雑音除去を行う方法により、雑音除去性能をさらに改善することができました。
・MR画像に応用した結果、画像のもつ特徴を失うことなく雑音除去できることが明らかになりました。画像診断をより容易にできる可能性があります。

■研究概要
 深層学習を利用した雑音除去法は、従来の非線形フィルタを大幅に上回る特性を示し、大きな注目を集めている。宇都宮大学学術院 伊藤聡志教授は、本研究において、MRI画像を対象とし、3つの観点から性能改善を図った。第1に活性化関数に従来のReLUではなくSwishを応用したこと、第2に雑音量が未知であり、かつ、空間可変な雑音画像に適応しうるブラインド雑音除去を導入したことである。第3に隣接する画像を線形加算して複数の加算画像を作成し、加算画像に対しブラインド雑音除去を行い、その後に連立方程式を解く並列型雑音除去法の導入である。実験の結果、Swishの採用によりReLUを上回るPSNRが得られた。また、並列型雑音除去法の採用により画質劣化を抑制した雑音除去を行えることが示された。

 本研究成果は、2月11日、学術誌「Magnetic Resonance in Medical Sciences」にオンライン公開されました。

脳のMRI画像
横から見た脳のMRI画像

■研究の背景
 磁気共鳴映像法(MRI)は医用画像診断装置として日々その重要性を増している。技術の進歩により高分解能かつ高品質な画像が得られるようになっているが、さらなる高速化法の提案により依然として雑音が多い画像が再生されることがある。医用画像診断の精度をあげるためには生体の構造を失うことなく雑音を取り除くことが必要であるが、生体の構造を保存することと雑音の除去性能をあげることを両立することは困難である。近年、深層学習を利用した雑音除去が提案され、高い雑音除去性能を示すことが報告されている。

■研究方法
 雑音除去性能を改善するために、これまで利用されていないSwishを活性化関数に使用した。17層をもつ深層学習ネットワークを使用し、さまざまな雑音量をもつ画像をランダムに学習させる方法により雑音量が未知な場合であっても雑音量に応じて適切に雑音除去を行うブラインド雑音除去の性能を与えた。提案法の有効性を高めるために複数の雑音画像に重みを変えつつ線形加算した複数の画像を作成し、それらに雑音除去を行う並列型雑音処理法(ParBID)を提案した。重み付き加算により雑音の分布が異なるので、元は同じ画像群であっても異なる雑音除去を受けることになる。雑音除去後に重み付き加算の逆演算を行うので加算により生じた画像の"ぼけ"の影響を受けない雑音除去像を得ることができる。

■研究成果
 Swishを活性化関数に使用することにより雑音除去性能を改善することができた。また、ネットワークは画像内で雑音量が変化する場合であってもブラインド雑音除去の効果により良好に雑音除去できることが示された。ブラインド雑音除去を並列型雑音処理法に適用した方法では、単一の画像をブラインド雑音除去するよりも、生体構造の保存性を改善できることが示された。特に3枚の画像を使用する3-slice ParBIDのときに最も大きな改善が見られた。

■今後の展望(研究のインパクトや波及効果など)
 深層学習を利用する雑音除去法は、優れた性能から医用画像処理の分野で多く使用されると予想される。本研究のブラインド雑音除去法は雑音除去処理を簡便なものとし、かつ並列型雑音除去は計算コストを大きく増やさずに雑音除去性能を高めることができる方法である。MRI画像以外の医用画像や自然画像にも応用可能であり、今後多くの画像に対し適用実験を行いたい。

■論文情報
論文名:Introducing Swish and Parallelized Blind Removal Improves the Performance of a Convolutional Neural Network in Denoising MR Images
雑誌名:Magnetic Resonance in Medical Sciences
著者:Taro Sugai, Kohei Takano, Shohei Ouchi,and Satoshi Ito
URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/mrms/advpub/0/advpub_mp.2020-0073/_article/-char/ja/

論文PDF掲載:こちらをご覧ください。

■研究に関する問い合わせ先
宇都宮大学 学術院 教授
伊藤 聡志
TEL:028-689-6276
E-mail : itohst※is.utsunomiya-u.ac.jp
(※を半角@に置き換えてください)