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石田学長らが「第18回尾瀬賞」を受賞することが決定しました

   このたび、石田朋靖学長が、長野敏英・元宇都宮大学特任教授(研究代表者)、大澤和敏農学部准教授とともに「第18回尾瀬賞」を受賞することが決定しました。

   尾瀬賞は、尾瀬に限らず、より広く湿原を保護するために、湿原を対象とした学術的・学際的研究を奨励し、併せて環境保護に関する関心を高めるために設けられている賞です。授賞式並びに受賞記念講演は、6月中旬に都内で行われる予定です。

研究テーマ:熱帯泥炭湿地の環境特性と泥炭保全管理指標の定量化

受賞理由
<総括>
   受賞者(3名)は、タイ南部の熱帯泥炭湿地を研究対象として、人為開発による泥炭地の地下水位低下が土壌有機物の分解促進をもたらす過程を詳細に調査し、開発影響を定量化すると共に、泥炭分解速度と地下水位の関係をモデル化し、実測データと一致することを示した。森林生態系の炭素収支の定量化により湿地林の炭素循環の特徴を明らかにするなど、学術的価値は非常に高い。受賞者は係留気球による泥炭地の環境調査法を開発し、人為開発により、熱帯泥炭湿地が巨大な炭酸ガス発生源になることを示した。受賞者の研究結果は、地球温暖化等により水位低下が起こるならば、尾瀬ヶ原湿原も顕著に変化する可能性を強く示唆しており、湿原保全への貢献は大きい。また現地調査結果を基に、熱帯泥炭湿地の状況判定指標を確立するとともに、その指標による泥炭地管理方法を示すなど、社会的貢献も大きい。
 
<学術的価値について>
   受賞者(3名)の研究は、タイ南部の熱帯泥炭湿地で、人為開発による地下水位低下が泥炭分解を促進することを明らかにした。とくに、泥炭沈下と炭酸ガス放出を現地で長期間自動測定し、人為開発の泥炭地への影響を定量化すると共に、泥炭の分解速度と地下水位の関係について構築したモデルの妥当性を、実測データをもとに検証した。また、森林生態系の炭素収支を定量化し、冠水の植物遺骸分解への影響、原生林と二次林の炭酸ガス放出量など、湿地林の炭素循環の特徴を描き出し、地球環境における熱帯泥炭地の位置づけを明確にした学術的価値は非常に高い。
 
<湿原保全への貢献について>
   従来、巨大な炭酸ガス吸収源と認められていた熱帯泥炭湿地が、開発により巨大な炭酸ガス発生源となることを示すとともに、通年湛水状態にある泥炭湿原の現地調査に有効な係留気球による調査手法を開発した。熱帯湿原と日本の湿原とでは、場による差はあるが、開発が泥炭地へ及ぼす影響や熱フラック変化に関する研究結果は、地球温暖化による水位低下が尾瀬ヶ原湿原や他の泥炭湿原に及ぼす影響の評価や、保全の検討に、貴重な知見であり、湿原保全への貢献は大きい。
 
<社会的価値と貢献について>
   本研究で明らかにされた地下水位と泥炭分解速度の関係、乾燥化による泥炭地からの炭酸ガス放出、原生林と二次林の熱フラックスの差に関する研究成果は、泥炭地の地球温暖化影響評価に貢献できる。また、熱帯泥炭湿地指標による泥炭地の管理法を示すとともに、モデルの構築により、現地から離れた地域と比較研究ができるようにしたことも、社会的価値があり評価できる。
 
<研究の将来性について>
   熱帯以外の地域にも適用可能な、泥炭中のガス拡散汎用モデルを開発中であり、泥炭の炭素放出を低減させる経済的手法の展開が将来期待される。代表者と共同研究者1名は高齢であるが、若手共同研究者は研究を継続、発展させる可能性が高く、将来が期待される。
 
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インドネシアのスマトラ島の泥炭地での調査のようす
左から2番目(下)石田学長、左から2番目(上)大澤准教授、右から1番目長野・元宇都宮大学特任教授