学長と外部有識者等との対談

「文理融合」で地域を学ぶ 宇都宮大学の新たな挑戦

下野新聞社社長 観堂 義憲氏
サステナブルなまちづくりに貢献

国立大学法人「宇都宮大学」(宇都宮市峰町)は来春、5番目の学部となる「地域デザイン科学部」を開設します。同学部は地域社会が抱える課題を理系、文系の隔てなく総合的に学問する「文理融合」が特長、全国でも先駆的な「「地域系学部」として期待されます。同大学では1994(平成6)年の国際学部以来の新学部です。今後、「地域に学び地域地域に返す」というモットーの下、宇大の「新たな挑戦」が始まります。そこで石田朋靖学長と、下野新聞社の観堂義憲社長に「地域デザイン科学部」の展望と、これからの宇大に期待することなどについて話し合っていただきました。司会・進行役は同大学地域連携教育研究センターの石井大一朗•特任准教授です。(企画・制作下野新聞社営業局)

先駆的な地域系学部

石井
来春から始まる「地域デザイン科学部」の展望、役割などについて、石田学長は、どうお考えですか。
石田学長
宇大は、これまで地域に密着し実践的な教育・研究を続け、地域の「知の拠点」として皆さんと密接に関わってきたと自負しています。モットーは「地域に学び地域に返す、大学と地域の支え合い」。民間の調査では「地域貢献度」で全国大学のトップ3に評価されてきました。
今後、地域経済の低迷、少子高齢化、人口減少など地域の社会環壊が厳しさを増す中、「地域を元気にするエンジン」としての役割を果たすことは宇大の務めと考えています。その中で地域経済を活性化するためのイノベーションについては、工学、農学部を中心に、文系も含め分野が融合しながら役割を果たしていく必要があります。一方で、新たな社会制度づくりやまちづくり、防災・減災対策など、地域そのものが抱える複合化した課題の解決にも迫られています。こうした課題を総合的に捉えサステナブル(持続可能)な地域をつくっていくことを「地域デザイン」と定義しました。
石井
従来にない学問領域ですね。どのような点をアピールしていきますか。
石田学長
建築学や都市工学に近い「建築都市デザイン学科」、土木工学に近い「社会基盤デザイン学科」の理系と、地域行政に関連する経済・法学といった社会科学、福祉、観光、地域文化など文系の「コミュニティデザイン学科」の3学科からなる「文理融合」の学部です。全国でも先駆的で先導的な内容の「地域系学部」といえます。
例えば、自治体や民間企業でまちづくりに関わる仕事に携わる場合、ソフト、ハードの両面から考える能力が不可欠です。建築や土木、地域に関わる社会科学といった従来の学問分野の専門性は大切にしつつ、より良い地域をデザインする観点から、必要な学問分野を融合させ教育や研究を行うことが新学部の特徴です。
観堂社長
「地域に学び地域に返す」というモットーは、地域と共に歩む下野新聞とも共通するところです。また昨年度の宇大の就職率は98%と高い実績があり、これは社会が宇大生の優秀性を認めていることの現れです。宇大および宇大生には、これまで以上に地域社会に飛び込み、共に汗を流す「フィールドワーク」を実践し、教育研究が地域頁献につながることを期待しています。

三つの「地域力」養成

石井
観堂社長からも実践的な教育のお話を頂きましたが、その点、新学部の授業にはどのような特色がありますか。
石田学長
現実の課題を意識しつつ、地域の方々と関わりながら、自らの学びを深め、総合的に地域をデザインする能力を身に付けるため、さまざまな授業のエ夫を行っていきます。その一っとして、全ての専門科目で「アクティプラーニング」を取り入れます。単に講義を聴いて知識を得るだけでなく、教貝の誘導により、知識が現実の問題とどのようにつながっていくかを主体的に考えさせます。
さらに地域と向き合う力、地域の実態を調査し分析する力、地域の課題を解決する力の三つからなる「地域対応力」を養成します。そのため、3学科の学生が混成チームを作って地域に入り、プロジェクトを実施するなど、まったく新しい教育も行います。当然、栃木という地域で教育・研究するので直接的に栃木に貢献します。さらに、地域という対象と真正面に対峙して得られた学びや研究手法は、どこでも通用するものです。人材育成と新しい知の創造、その両輪で栃木、そして国内外の地域を支えていきたいです。
観堂社長
近年、文部科学省は、大学の性格付けを明確にせよと要求していますね。宇大はいち早く「リージョナル」(地方的)な大学を打ち出すべく、今回の新学部開設にもつながったわけです。まさに「天の時」という時宜を得たものであり、さらに各産業のバランスが取れた栃木という「地の利」を生かした新たな学問の発揚に期待します。残るは「人の輪」。新学長の下、この学部が安定飛行し、徐々に高度を上げていくことに期待します。
石田学長
大学教貝になって30年余。学生の現実世界との接点が希薄になっているように感じます。私が生まれた群馬の里山地帯であっても、子供たちは現実の自然の中でなく、ゲームやコンピューターの中のバーチャルな世界で、自然や社会に触れたという感覚を持つ傾向にあります。また、少子化や核家族化や、地域社会の関係性が脆弱化する中で地域の中で擦れ合い生きていく感覚が薄れている学生が多いのではないでしょうか。「問題は研究室で起きているのではない。現場で起きている」。まるでテレビドラマのキャッチコピーのようですが、これが私の教育研究スタイル。これからの人材には、大学での学びが実社会とどのように関連していくのか考える想像力が必要なのです。新学部においても現実の社会の中で、他人と擦れ合いながら、専門知識を生かせるように育てていくことが非常に重要だと考えています。