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年頭のご挨拶

 令和三年の仕事始めにあたり、ひとことご挨拶を申し上げます。皆さんそれぞれ晴れやかな新年を迎えられたことと思いますが、今年は冬季休業が例年よりも短めで慌ただしかったでしょうか。

 昨年は新型コロナウイルス感染症に振り回された一年でした。幸いにも本学ではクラスター的な感染拡大もなく、健康被害を受けた教職員や学生はいらっしゃらないと伺っており、安堵しております。どうか油断なさらず、これまで以上に公私とも感染対策を遵守いただきたいと思います。
 今回のコロナ禍は社会全体に甚大な被害を与え、大学でも教育・研究をはじめとする業務全般に大きな影響があらわれました。私の任期も残り三か月となった今年のご挨拶は、例年のような大学の状況全般や今後の展望ではなく、コロナ禍の中で浮き彫りになった問題を契機に、今後みなさんが真剣に考え取り組んでいただきたいことをお伝えしたいと思います。

 一つは大学の最大のミッションである教育に現れた課題であり、国際的に遅れた教育方法を見直しつつ本学の存在意義を強めていかなければいけないという点です。
 オンライン教育を導入せざるを得ないなか、学生からすれば、通学時間等の節約、自分のペースで理解できるまで学習できるなどのメリットが挙げられました。一方で、通信環境の脆弱性によるトラブル、不慣れな教員の講義の質、大量のレポートやコメント・返却の不備等に対する不満などの声も少なくありませんでした。更に教員とあるいは学生間のコミュニケーションの取りにくさなども指摘されています。しかし、これらのデメリットは双方の慣れや環境の整備、ビデオチャット等の活用を工夫する中で解消していくと期待できます。加えてオンライン教育が真剣に取り組まれる中で、知識はオンラインで、それを踏まえたディスカッションや演習を対面でというようなハイブリッド型、反転型の授業が模索され、国際的に大きく遅れていた知識教授型中心の日本型教育の見直しという副産物も生み出されつつあります。本学としても積極的に取り組むべき課題です。
 ところで、このようにオンラインの教育が拡大する中で、私たちは大学において、特に教育が主体にならざるを得ない地方大学において、物理的なキャンパスが存在する意味を真剣に考えておく必要があります。共同教育学部を構想していた3-4年前から自身に問い続けてきましたが、私自身まだ納得の得られる結論は得られていません。例えば実験系の分野では実験や実習があるからと言われます。しかし5Gさらには6Gへとネット環境が進みVR技術が進む中では、ディスカッションはもとより、教育的な実験実習のオンライン化は技術的に十分に可能になるでしょう。手術支援ロボット"ダビンチ"を使った遠隔手術すら可能となる時代です。繰り返しますが、"大学に物理的なキャンパスがある意味"を突き詰めて考え、その意味を強みとして延ばさない限り、本学のような教育主体の地方大学は、その存在意味が問われかねないと危惧しています。過去の単純な延長としての未来はないことを肝に据えていただきたいと思います。

 二つ目は運営上の課題であり、それを契機に働きやすく効率・効果的な運営システムを作り上げなければいけないという点です。
 コロナ禍の中、一部で在宅勤務等を実施したのはご記憶の通りです。そこで課題となったのは、オンラインでも効率的かつ確実に業務を遂行できるシステム整備が不十分だということです。教務システム、財務会計システム、職員webサイトをはじめとして多くのサイトが外部からアクセスできず、在宅で効率的な業務を行う上での障壁が存在します。これらについてはセキュリティー対策を万全にしたうえで、新年度に向けて改善が進められています。まさに本学でもコロナ禍以前から計画されていたDX(デジタルトランスフォーメーション)の一環です。
 しかし、注意しなければいけないのは、DXは手段であり目的ではないということです。大学でのDX推進は、データとデジタル技術を活用して教育・研究・運営の業務を効率化させることが目的であり、そのために業務のプロセスや、組織、大学の"文化"を根本的に見直す契機となるものです。ここでは取り敢えず事務的業務だけで話しますが、趣旨は教育・研究であっても同様です。  
 長く事務的な業務を見ていると、部、課さらには係の間ですら厳然と壁が存在するため、二度手間、三度手間になっている業務の重なり・無意味な無駄が嫌でも目につきます。それは決して大学に限った話ではないようですが、そうした無意味な無駄を曖昧にせず、例えば個々の業務の見直しを図りながらフローチャートを作り、他の部・課・係との擦り合わせを行って重複を避け、お互いに仕事を押し付け合うのではなく、正しいコミュニケーションをとりながら適切な役割分担を行うことが不可欠だと考えます。そうした根本的な見直しがなければ、形式的にデジタル化やリモートワーク可能な環境が整備されても、その効果は極めて限定的です。自分の所属する狭い場所に立った業務改善や効率化ではなく、宇都宮大学の中にある組織間の壁という古い"文化"を壊す覚悟が必要です。制度疲労を起こしているかもしれない現在の部・課・係という組織を、単に名前の変更だけでなく大胆に見直し、業務効率化を図る必要があるかもしれません。
 業務効率化、それは過去から何度も叫ばれ、しかし根本的には一向に進んでこなかった難しい課題です。しかし業務効率化は単に"経営の合理化"という観点で進められるのではありません。経営体である以上、そうした観点が皆無と言えないのは当然ですが、より大切なのは、効率化して業務量を減らし、残業もないライフワークバランスの取れた職場にすることです。更に、単なる"こなし"の業務だけでなく、個々の人間が組織の在り方や改善をじっくりと考え実効性のあるクリエイティブな議論をする精神的・時間的余裕、誤解を恐れずに言えば"意味のある無駄"を生み出すためです。こうした観点は、不必要に忙しく、しかめ面を突き合わせた職場ではなく、だれもが明るく働きやすい宇都宮大学にするために不可欠なものだと確信しています。視点を自分の狭い業務から真に宇都宮大学のためにと変える、それには上位職の方々が率先して意識改革しリードしなければなりません。ある方がおっしゃっていました。"給与を得る手段として目の前のことをこなすのは労働laborである。誇りを持って働く、より良い業務を考えて働く、そこに喜びを感じてこそ仕事workである。"ぜひともすべての皆さんが"仕事人"になっていただきたいと願っています。

 昨年末に文部科学省から発表された令和元年の業務実績評価では、本学と群馬大学が進めた共同教育学部が"特筆すべき進捗状況にある"3大学の事例の一つとして取り上げられました(残りの1大学は岐阜大学)。皆さんのご理解やご協力、ご苦労によって、本学のプレゼンスや評価は確実に上がっています。すべての方々に本学の構成員であることへの自信と誇りをもって業務に励んでいただきたいと思います。現在、第三期中期目標・中期計画を確実に実施するための施策を議論するとともに、池田次期学長候補者を中心とする新執行部では、来年から始まる第四期中期目標・中期計画期間に向けて、精力的に目標・計画が議論されています。遠からずうちに、みなさんにご議論いただく時期が来ると思いますが、ぜひとも宇都宮大学の持続的な発展的存続のために、幅広な視点に立ったご意見・ご提案をいただきたいとお願いいたします。
 冒頭にも述べたように、今年の年頭のご挨拶は、やや異例の内容になってしまいましたが、いずれにせよ、新年にあたり学長として改めて気持ちを引き締め、みなさんと力を合わせ、社会から信頼されるより良い大学づくり、働き甲斐のある持続的な大学づくりに励んでいきます。これは池田次期学長候補者も同じ思いですので、どうかよろしく願いいたします。結びに、今年が皆さんにとって、宇都宮大学にとって、そうしてあらゆる社会にとって、佳き年になりますことを願い、年頭のご挨拶と致します。


2021年1月 仕事始めの日に  宇都宮大学長 石田朋靖