重要なお知らせ

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平成31年度入学式(4月3日) 式辞

 桜の花が美しく微笑むこの佳き日、宇都宮大学は、総勢1386名の皆さんを、あらたにお迎えすることになりました。皆さん、ようこそ宇都宮大学にいらっしゃいました。宇都宮大学を代表し、お一人おひとりを、心から歓迎いたします。また、これまで温かく見守り、支えてこられたご家族ならびに関係の皆さま、本当におめでとうございます。

 宇都宮大学は、150年近い歴史と伝統を持ち、そのルーツは明治から大正時代にかけて、栃木県に設置された二つの教育機関、すなわち、師範学校と宇都宮高等農林学校にあります。それぞれ、現在の教育学部と農学部の前身です。その後、工学部、国際学部が続き、一昨年には全国で初めての文理融合型の地域創生系学部として地域デザイン科学部が設置され、5学部からなる総合大学として新たな歴史を刻み続けています。現在は、皆さんを含め5千名の学生が学び、350名の教員と210名の事務職員が皆さんを支えており、これまでに6万人の学生が本学を巣立ち、社会の第一線で活躍してきています。

 宇都宮大学では、伝統を受け継ぎ、更に良き学び舎として発展するために「宇大スピリッツ:3C精神」を大切にしています。それは、自らのビジョンに向かって「Challenge」=主体的に挑戦するC、「Change」=自らを変えるC、さらに「Contribution」=広く社会に貢献するということのCです。宇都宮大学では、この3C精神を大切に育て、地域に寄り添った教育研究の伝統を受け継ぎながら、学生と教職員が一体となって、さまざまな新しい試みに挑戦し、未来に向かって変化しています。
 例えば、3年前の4月には地域デザイン科学部がスタートしたのに続き、この4月には工学部を一学科3コースに再構成し、また大学院4研究科を新たな1研究科として全面的に改組しました。これらはいずれもこれからの時代に強く求められている分野融合・文理融合を念頭に、狭い専門分野だけではなく幅広な分野と連携した学部教育・大学院教育を目指そうとしたChallengeです。
 また、あらたな組織の改革だけではなく、地域の強みを活かし世界レベルの教育研究を進める光工学、現場と最先端のバイオテクノロジーをつなぐ分子農学の教育研究、巨大企業や大規模大学を抑えてロボット大賞や発明大賞を受賞したイチゴ収穫ロボットや長距離輸送技術に関する工学・農学の連携研究など、さまざまな分野で「宇大スピリッツ:3C精神」による成果が花開いています。
 本日から宇都宮大学の一員と成られた皆さんには、ぜひとも「宇大スピリッツ:3C精神」のDNAを受け継ぎ、自らの未来を切り拓く力、より良き社会づくりを担う力を養って頂きたいと思います。

 もう一つ宇都宮大学が大切にしようとしているのが、国連が2015年にまとめた「持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals」省略してSDGsと言われるものです。貧困や飢餓の根絶といった問題から、産業と技術革新の基盤、地球温暖化対策など、2030年までに世界が達成すべき課題を17の目標としてまとめたものです。本学が掲げる理念「人類の福祉の向上と世界の平和に貢献すること」はまさにこのSDGsそのものであり、宇都宮大学の教育研究はすべてこのSDGsを強く意識した方向に進んでいます。ただSDGsと言われても初めて聞かれた方が大半かと思いますが、たとえば民間企業ではSDGsに基づいた事業戦略を立てていることが企業価値の評価指標になるというほど、これからの社会のキーワードの一つです。一年生全員の必修講義「とちぎ仕事学」の中でもSDGsの概要が紹介されると思いますし、どうか本学での学びを進める上で、全ての皆さんにSDGsを強く意識していただきたいと思います。

 さて、2年前に人工知能が世界最強の囲碁棋士を破ったのに象徴されるように、人工知能の進歩は著しく、2045年ごろには人工知能が人間の知能を超え、ロボットが多くの人間の仕事を奪うという予想も聞かれます。そうした未来社会が想定される中で、皆さんは、自らの将来、そうして、より良き社会を切り拓くため、宇都宮大学で何をどのように学んだらよいのでしょうか? 三つヒントをお伝えしようと思います。
 一つめは、思考力とコミュニケーション力を養うことです。
 さまざまな問題について筋道を立てて考え、自分の意見をまとめあげ、それを相手と議論しながら磨き合う。こうした思考と議論の訓練、相手の立場を尊重した正しいコミュニケーションこそ、人工知能にはマネしにくい人間の優位点であり、どの時代にあっても最も必要な能力です。これまでのように定まった知識の習得に追われ、偏差値に一喜一憂することから解き放たれて下さい。そうして、じっくりと批判的にさまざまな本や新聞を読む、何故という疑問を大切にして授業を受け教授と意見を交わす、年齢や立場、背景の異なる人など、さまざまな人たちと語り合い議論する、いろいろな手段によって人工知能にはマネできない能力を養って欲しいと思います。
 二つめは、専門分野を深めるだけでなく、それ以外の幅広い学問にも触れることです。
 たとえばSDGsの中にある温暖化対策ひとつをとっても、自然科学、経済学、政治学、倫理学や哲学、いろいろな学問分野で全く違ったアプローチをします。狭い専門分野を超えた幅広な考え方を身につけることは、あらたな発想を生み出す源となります。さらに、多面的な物の見方を知ることは、独善的な思考から抜け出て、人間としての「見識の高さ」にもつながるはずです。一年生の皆さんが入学直後から学ぶ基盤教育はリベラル・アーツ教育ともいわれ、幅広な見識を養うために準備されているのです。
 こうした幅広な学問的視野の重要性は大学院生の方も全く変わりません。Society5.0という生産性革命が進む中、例えばものづくりの分野では使う人間の目線に立ったものづくりが強く求められ、グローバルな文化の多様性や感性、心理学や倫理学など、いわゆる文科系と言われる分野の知見が欠かせません。自らの強みとなる専門性を高めるだけでなく、幅広な視野を持ち他の分野とつながる能力を高めることは、大学院修了後に強く期待されるクリエイティビティーやイノベーション創出の絶対的な武器になります。
 三つめは、行動的知性の養成です。
 これは、本当の知は実践との表裏でなければならないという考えに立っています。現代社会が直面する問題を意識し、課題解決に向けて、さまざまな知識や知恵を総合し、それを行動につなげる能力を磨いておくなら、どんな時代、どんな社会で、いかなる職業についても、恐れることはありません。そのため、私たちはアクティブラーニング形式の授業やプロジェクト型の演習などを重視して、知識と実践を主体的に融合する場面や機会をできるだけ多く用意しています。

 以上、宇都宮大学で学ぶ上での三つのヒントをお伝えしましたが、大学時代の学びは、このような"知性"の習得だけではありません。もう一つ大切な学びは、多くの生身の人間と触れ合い、また、異文化の実体験などを通して、人間としての幅や社会性を広げることです。
 積極的にサークル活動やボランティア活動に参加し仲間をつくる、あるいはパックツアーではないかたちで海外を訪問し、日本とは違う人の営みや雰囲気を肌で感じ、人と触れ合う、これらも大切な学びなのです。そうした活動の中で、スマートフォンを通してではなく、生身の人間と真正面から向き合い、自分と違う人格、全く異なる文化や価値観に触れ、共に笑い、汗や涙を流し、議論をすることによってこそ、相手の想いに共感し、相手を尊重できる豊かな人間性、すなわち人工知能では真似のできない人間力を育むことができるのです。
 宇都宮大学にはたくさんのサークルやボランティア・グループがあり、皆さんを海外に派遣するいくつものプログラムが用意されています。また多くの方からのご寄付によって、皆さんの海外体験を経済的に支援するシステムも充実させていますから、是非とも積極的に挑戦してみてください。

 以上をまとめれば、学部であれ大学院であれ、大学では"知性"の習得という学びに加えて、人間としての幅を広げる学びも積極的に心がけて欲しいということです。そうした学びを心がけるなら、どんなに人工知能が発達し、どのような社会が来ようと、何も心配することはありません。

 さあ、これからがスタートです。皆さんは今どんな大きな夢を抱くことも許される新たな出発点に立っています。未来は誰かから与えられるものではなく、皆さん自身が創るものです。大きな夢、高い目標を持ち、宇大スピリッツ:3C精神を心に刻み、SDGsを意識しながら幅広く学び、心豊かな大学生活を楽しんで欲しいと思います。そうして宇都宮大学で逞しく成長された皆さんと卒業あるいは修了を祝い合う日を楽しみにし、私の式辞とします。

     平成31年4月3日
国立大学法人宇都宮大学長
石田 朋靖