重要なお知らせ

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平成30年度学位記授与式(3月22日) 式辞

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本日、ご来賓ならびに関係者の皆様にご臨席いただき、平成30年度の学位記授与式を挙行できますのは、本学にとって大きな喜びです。ただいま学士958名、修士355名、博士17名、合計1330名の皆さんに学位記を授与いたしました。また、一週間前の3月15日には、宇都宮大学・東京農工大学・茨城大学の3大学で構成される東京農工大学大学院連合農学研究科から、本学教員の指導を受けた10名の方に博士の学位が授与されました。それぞれの学位を修め、本学から巣立っていく全ての皆さんに、そうしてこの日を心待ちにしてこられたご家族の皆様に、宇都宮大学の教職員を代表して心よりお祝い申し上げます。本当におめでとうございます。
また、この中には54名の留学生の方がいらっしゃいます。母国を離れ言葉や生活習慣の違いも乗り越えながらの学位取得、本当にご苦労様でした。

さて、今回は平成最後の学位記授与式となりますが、この30年余りを振り返ってみると社会の大きな動きに驚かされます。世界情勢を見れば、平成元年のベルリンの壁崩壊に始まるドイツの統一やソビエト連邦の崩壊と東西冷戦終結など、平成の時代は平和への大きな期待と共に始まりました。しかし、残念ながら湾岸戦争に始まる国際紛争は民族主義も加わって各地で一層複雑化し、途上国の経済発展も加わり、世界は一層カオスな状態になりつつあります。日本を見れば、異常な好景気で踊らされたバブル経済も、平成の開始間もなく崩壊し、金融機関の破綻に象徴された経済低迷の爪痕はいまだ残り、国家財政の悪化や人々の経済格差は進行する一方です。また、相次ぐ地震や台風などの天災とそれに伴う人災の爪痕も、いまだ国民生活に影響を残しています。一方で、科学技術の世界を見れば、平成元年にはヒトの全遺伝子配列を決定するプロジェクトがアメリカで始まり、医学・薬学やバイオテクノロジーの飛躍的な発展のきっかけになり、また、ほとんどすべての皆さんが恩恵を被っているインターネットも基礎の基礎が広がり始め、どちらも平成の時代と共に大発展してきました。
このように、その幕を閉じようとしている平成の30年余りは、国内外ともに大きな変化の時代でしたが、次なる時代は、これにも増して歴史の大転換の始まりになると思っています。身近を見ても少子高齢化や人口減少と地方の衰退、グローバル化やデジタル革命に伴う産業構造や就業構造の変質、あるいはこれらとも連動した経済状況の低迷など、日本を取り巻く環境は厳しさを増しています。こうした情勢は世界的に見ても大きな違いはなく、さらには自由経済や民主主義といった現代社会を支えてきた基本的な仕組みそのものが世界的に揺らいでいます。言い換えれば、皆さんは、これまでの延長線では対応できない社会に飛び出していくのです。そんな社会を生きるうえで助けとなる、三つのことをお伝えしたいと思います。

まず一つ目は、少し永くなりますが、皆さんが授与された「学位」についてです。
これは私の持論なのですが、学位は「学」と「位」二つの観点から考える必要があります。先ず「位」ですが、これには品格という意味があります。学位を授与されるにあたり、皆さんには、この品格という言葉を噛みしめてほしいと思います。
学位を取得するまでには、ご家族、あるいは熱心な指導教員やよき友人など多くの方々の支えがあったはずです。更に、意識しなかったかもしれませんが、皆さんの教育にかかった費用の三分の二近くが国民の税金で支えられているのです。さまざまな支えに対する感謝とそれに報いる責任感、こうした認識こそが人間としての品格の基礎です。一人よがりでなく、相手の考えや立場を尊重し、感謝を忘れない生き方、それはモノづくりであれサービス業であれ、全ての仕事の中で、さらにはグローバル化が進めば進むほど大切になってきます。ぜひとも、学位という言葉に込められた、人間としての品格というものを強く意識し、それを磨き続けて欲しいと思います。

次は「学」についてです。「学」はもちろん「学ぶ」ということですが、では皆さんはいったい何を学んだのでしょうか。
学士、修士、博士、それぞれ到達レベルは異なりますが、広い教養に基づく学術的な素養や知識を修得した証明です。
しかし皆さんが、大学で身につけた知識が、社会の中で直ぐに役立つことはめったになく、通用しないことの方が多いでしょう。また、仮に直ぐに役立つ技能を習得していたとしても、それは直ぐに旧くなってしまいます。しかし、安心してください。皆さんは、学位を取得する過程で、どんな局面で役立つもの、いつまでも旧くならない大切なものを学んだのです。
学位論文を作成した時のことを思い出して下さい。現実の問題に基づいた課題の設定、課題を解くための新たな知識習得とチャレンジ精神、誰も知りえない事実を把握・実証しようとする探求心と柔軟かつ論理的な思考、事実を客観的かつ体系的に整理し伝える経験、そして、あきらめなければ困難は乗り越えられるという自信など、さまざまなものを身につけたのです。そうして、単なる知識ではなく、このような知的能力の連鎖こそが大学での学びの本質であり、皆さんは本学で身につけた「学」を一生の財産として大切にして欲しいと思います。

以上、一つ目をまとめれば、学位を授与された皆さんには、変化する社会に対応し、あらたな課題を解決する知的能力、すなわち「学」と、その「学」を人々や社会のために正しく役立たせる人としての品格、すなわち「位」を活かし、自信とプライドを持って自らの人生を切り拓き、良き社会づくりに貢献して頂きたいと思います。

二つ目は宇大スピリッツ「3C精神」についてです。
皆さんの肩にかけていただいたブルーのストール、これには、決して忘れないで欲しい「本学の熱い思い」が込められています。ストールには3本の線が描かれています。この線は、本学が組織として大切にし、全ての学生・教職員にも大切にして欲しいと願う宇大スピリッツ「3C精神」を象徴しています。ご存知のように「3C」とは、明るい未来を開拓するため主体的にChallenge・挑戦することの「C」、時代の変化に対応し自らをChange・変化させることの「C」、そして、広く社会にContribution・貢献することの「C」のことです。
宇都宮大学は、この3C精神に基づき、地域における知の拠点として、さまざまな挑戦を行ってきました。皆さんの在学中だけ見ても、地域デザイン科学部の新設や国際学部の強化、また、この4月からは全学一研究科の修士課程や工学部の一学科体制など、時代や社会の要請に合った、幅広な視野も備えた専門教育を目指そうとしています。こうした構想は、まさに宇都宮大学が、どのように社会に貢献するかということに正面から向き合い、主体的に挑戦し、自らを変化させてきた結実、つまり「3C精神」の賜物なのです。
くしくも昨日に現役引退を発表した野球界のレジェンド、イチロー選手は、かつて4000本安打の大記録を達成した時に「4000本の成功の裏には8000本の失敗があった」とおっしゃいました。また、ソフトバンクの創業者、孫正義さんは「自分は経営者として誰よりも多くの失敗を繰り返してきた。でもそれが全部自分のプラスになっている」とおっしゃっています。同じような言葉は枚挙にいとまがありません。どうか皆さんも、時々このストールを眺めて「3C精神」を思い出し、失敗を恐れずに正しく挑戦をし、満足ゆく人生を送っていただきたいと願っています。本学で学位を取得し、「品格」と「知的能力」を身につけた皆さんなら、どんな困難も必ず乗り越えられると確信しています。

最後の三つ目は皆さんの母校についてです。
皆さんは、これからの人生の中で、判断に迷い、悩み、誰かに相談したくなることもあるはずです。あるいは最近よく耳にするリカレント教育、すなわち仕事を進め、あるいは人生を歩む上で、違った切り口の学びが必要になることがあるかも知れません。そんな時には、いつでも宇都宮大学に戻ってきてください。指導教員をはじめ教職員一同、一緒に考え、あるいは新たな学びを提供し、みなさんを支援したいと思っています。また、チャレンジに成功し、祝杯を上げたいときにも、ぜひ宇都宮大学に戻ってきてください。宇都宮大学は皆さんにとって、いつでも戻ってくることができる母校、いつまでも信頼できる母校であり続けたいと思っています。どうか母校が皆さんを支え続けているということを忘れないでください。

以上、学位への誇りと自信、3C精神、皆さんを支え続ける母校の三つについてお伝えしました。こうした全ての想いを込め、母校宇都宮大学を旅立つ皆さんに対して、式辞をこの言葉で結びたいと思います。

みなさん、いってらっしゃい。良き人生を!

   平成31年3月22日 
国立大学法人宇都宮大学長
石田 朋靖