クールに分析、猛暑の科学(1/2) 共同教育学部 瀧本家康 准教授

2023年9月4日

深刻な「暑さ」

 2023年も暑い夏になりましたね。今年は南米ペルー沖で海面水温が平年よりも高くなるエルニーニョ現象が発生していました。一般的にはエルニーニョ現象は日本に冷夏をもたらす傾向がありますが、地球の気候は複雑なシステムです。今年はエルニーニョ現象だけでなく、インド洋で「ダイポール現象」も発生し、その効果がエルニーニョ現象を上回ったことから、日本は猛暑に見舞われました。これらのことからも地球の気候にとって、地球表面の7割を占める海が重要であるとともに、日本の気候が遠く離れた地域の影響を受けて決まることもよくわかります。気象や気候はまさに「風が吹けば桶屋が儲かる」と同じように思いもよらぬことがきっかけとなって変化することがあります。
 さて、そのような地球規模の背景の中で、わたしたちが暮らす宇都宮の気温を見てみると、今年の7-8月の平均気温は平年よりもおよそ2.5℃程度高く、いつも以上に暑い夏だったことがデータからもわかります。7月25日には栃木市で熱中症で死亡する事例も発生しており、夏の暑さが「災害」になりつつあることを実感します。

参考:池田一生."小売店50代従業員、熱中症で死亡 真夏日に冷房つけず 栃木".
毎日新聞.2023/7/25 09:56(最終更新 7/29 20:33),
https://mainichi.jp/articles/20230725/k00/00m/040/028000c,(参照2023/08/25).


都市化という要素

 近年は日最高気温が35℃以上となる「猛暑日」も増加傾向にあり、これまで「異常」だった暑さが「通常」になりつつあるのかもしれません。このような気温の上昇傾向の背景には、地球温暖化という地球規模で気温が変化していることもありますが、宇都宮のような場所では、それ以上に「都市化」という人工的な要因が大きく効いてきます。

宇都宮市の年間猛暑日日数

参考・引用:"栃木県の気候変動 「日本の気候変動」(文部科学省・気象庁)に基づく地域の観測・予測情報リーフレット".宇都宮地方気象台・東京管区気象台.令和4年3月,https://www.data.jma.go.jp/tokyo/shosai/chiiki/kikouhenka/leaflet2021/pdf/tochigi-l2021.pdf,(参照2023/09/01).


 みなさんも一度は耳にしたことがあるかもしれませんが、宇都宮のような都市部では、その周辺地域と比べて気温が高くなる「ヒートアイランド現象」が発生しています。


 さて、ここまで読んでいただき、ちょっと難しい話になってきたなあ、と思っていらっしゃるかもしれません。しかし、このあとにエッ!と驚くことがきっと待っていると思います。ぜひこのまま頑張って進んでみましょう。でも、その前に、エッ!と驚くために、ぜひ次のクイズにトライしてみてください。回答後に「スコア」を表示する、を押していただければ、ご自身の得点と回答の正誤を確認することができます。トライに回数制限はありませんので何回チャレンジしていただいても構いません。(全部で7問、1~2分で回答できます。もちろんこのまま読み進めていただいても支障ありません。)

クイズの結果はいかがだったでしょうか。。。





都市と郊外の比較

 「ヒートアイランド現象」はすでに1800年代には起こっていることが発見されています。そして、宇都宮でも実際に起こっているかどうかは、たとえば、宇都宮市と日光市のこれまでの気温の変化のしかたをくらべるとよくわかります。気温の上昇が地球温暖化だけによるものであれば、この2地点の気温の上がり方はほぼ同じになるはずです。しかし、実際は宇都宮市の方が気温の上がり方が大きいことがわかります。この日光よりも大きい分が「都市化」による影響であると見積もることができます。

宇都宮市と日光市の気温変化の比較

宇都宮市と日光市の気温変化の比較

 では、なぜ「都市化」すると気温が上昇するのでしょうか。そこで、宇都宮市と日光市の風景の違いを考えてみましょう。今ではGoogleマップなどで簡単に航空写真を見ることもできますので、実際に比較してみると面白いです。一例を以下に示してみます。いかがでしょうか。どんなことに気がつくでしょうか。



宇都宮市

日光市

  一目で分かる点として、宇都宮市と日光市では、人工的な建造物の量が違うことが見て取れますね。宇都宮市ではコンクリートの建物やアスファルトの道路が一面に広がっています。その一方で、日光市では水田や畑、樹木が多いことがわかります。このように都市部では、郊外に比べ、緑が少ないことが特徴であるとともに、そこで暮らしたり働いたりしている人口も多い点が都市の気候に影響を与えています。

人工物がもたらす影響

 普段の生活の中ではあまり意識しませんが、コンクリートやアスファルトと樹木などの植物では、熱のため込みやすさが違います。写真のように表面温度の違いを色で表すことができるサーモカメラを使って宇都宮大学の構内を撮影すると、道路や建物に比べて樹木の温度が低いことがわかります。また、都市部では、人口が多いことから人間活動によって排出される熱の量も郊外に比べて多く、これらが要因となって都市部の気温が変化します。エアコンの室外機をサーモカメラで撮ってみると多くの熱を排出していることがよくわかります。

大学構内エアコン室外機

大学構内とエアコン室外機付近のサーモカメラの比較


 人工的な活動という点では、車や工場から出る二酸化炭素は地球温暖化の要因として考えられていることから、ヒートアイランド現象の要因にもなっていると考える方もおられるかもしれません。しかし、実際には二酸化炭素や大気汚染物質はヒートアイランド現象の原因にはならないことがわかっています。 この記事を読んでいらっしゃるみなさんもコンクリートやアスファルトが多い街なかに行くと、暑さが厳しいと感じることが多いかもしれません。そして、報道などでもヒートアイランド現象が話題として上がるのは夏の暑い日が多いことからも、この暑さが「ヒートアイランド現象だ!」と実感していらっしゃるのではないでしょうか。しかし、ここで意外な事実が・・・

 後編では、ヒートアイランド現象の誤解されがちな本質を探ってみたいと思います。






著者プロフィール 瀧本 家康 准教授

瀧本 家康 (たきもと いえやす)
准教授
共同教育学部 学校教育教員養成課程
自然科学系(理科分野)

博士(理学)。専門分野は、地学教育、理科教育、自然地理学、気候学など。神戸大学附属中等教育学校教諭などを経て、18年より現職。学校現場での指導経験を活かして、ICTを活用した新たな理科教材の開発などを行っている。著書に『大学的栃木ガイド』(昭和堂)など。

※記事の内容、著者プロフィール等は2023年8月当時のものです。