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[プレスリリース]軽量高強度構造用材料チタン合金の強度を左右する添加レアメタル近傍の原子移動モデルを解明 ーチタン合金の高強度化・コストダウンに期待ー

 国立大学法人宇都宮大学 山本 篤史郎 准教授,国立大学法人名古屋工業大学大学院 林 好一 教授を中心とする研究グループは,公立大学法人広島市立大学,国立大学法人熊本大学,公益財団法人高輝度光科学研究センターとの共同研究により,チタン合金を製造する際に添加されるレアメタル近傍の原子移動モデルを解明し,チタン合金の更なる高強度化とコストダウンに資する合金設計の新たな指針となる知見を得ました。

【発表のポイント】

・ ある元素近傍の原子配列を可視化できる蛍光X線ホログラフィーをチタン合金に適用。

・添加レアメタル原子の周りの原子配列が従来説と異なることを発見。

・今後,チタン合金に添加するレアメタルに応じて,その近傍の原子配列を明らかにすることにより,最も効果的・経済的なレアメタルの選択と添加量を設定できる。

・チタン合金の更なる高強度化とコストダウン化に大きな貢献が期待できる。またチタン合金の用途の広がりや複数の特徴を有するチタン合金の開発の糸口にもなりえる。

 

<担当・問合せ先>

国立大学法人宇都宮大学 学術院(工学研究科)

 准教授      山本 篤史郎

 TEL:028-689-6034

E-mail:toku※cc.utsunomiya-u.ac.jp

(※を@に置き換えてください。)

〇プレスリリース詳細(PDF)

チタン合金は鉄鋼材料と比べて,比重が約半分,強度が同程度であるため,航空機において高い荷重がかかる部品に採用される動きが広がっています.また,生体適合性が高いため,眼鏡フレームや人工骨などにも用いられています.チタン合金には結晶構造の異なる相が主に2種類あり,α相とβ相※3)と呼ばれています.このうち,β相は結晶構造が体心立方構造で,高強度でありながら機械加工しやすい特徴があり,β相を含むチタン合金の利用が近年急速に広がっています.

β相を含むチタン合金を作製するためには,ニオブ,タンタル,バナジウムなどの高価なレアメタルを添加した上で様々な熱処理を行う必要があります.しかし,その熱処理によってチタン合金の強度を低下させて加工性を劣化させる微細なナノ相(ω相※4))も同時に生じます.したがって,必要最小限のレアメタル添加量でチタン合金中のω相の生成を抑制すると同時に,β相の割合を最大化できれば,低コストで優れた軽量高強度構造用材料を実用化できます.
 
チタン合金に添加するレアメタルはこれまで経験的に選択されており,どのレアメタルが最もβ相を生じさせる能力があるかわかっていませんでした.本研究では,チタンとレアメタルの一種であるニオブの2種類の元素からなるチタン合金中に含まれるニオブ原子の周囲の原子配列を,蛍光X線ホログラフィー※5)と呼ばれる原子配列を三次元可視化できる手法を用いて調査しました.その結果,β相中はもちろん,ω相中でさえニオブの周囲はβ相の原子配列に近いことを発見しました.これにより,ニオブを添加することによって,チタン合金中のβ相の割合が増加する効果が,原子配列の観点から実証されました.
 
今後,チタン合金に添加されることの多いその他のレアメタルについても同じ実験を行うことにより,レアメタルが持つβ相増大効果を比較できるようになり,最適な軽量高強度チタン合金の開発に貢献するものと期待されます.
 
本研究内容は平成29年4月28日に,金属材料学で最も権威のある雑誌Acta Materialiaにオンライン掲載されました。
 
【研究開発の背景】
チタン合金は鉄鋼材料と比べて,比重が約半分,強度が同程度であるため,軽量高強度構造用材料として用いられています.また,ニッケルを含まないため金属アレルギーが生じにくいので生体適合性が高く,海水に触れてもほとんど錆びないので,従来,眼鏡フレームや人工骨など小型の部品に用いられてきました.しかし近年,機械加工技術の進歩により大型のチタン合金部品を製造できるようになったため,航空機の着陸脚など大きな荷重がかかる大型部品の材料として,鉄鋼材料の代わりにチタン合金が採用されるケースが増えています.
 
チタン合金の機械加工の難易度を左右するのが結晶構造です.チタン合金には結晶構造の異なる相が主にα相とβ相の2種類あり,結晶構造はそれぞれ,六方最密充填構造(HCP)と体心立方構造(BCC)です.チタン合金のα相は高い強度を持っていますが機械加工が難しいのに対し,β相は機械加工が容易という特徴があります.そこで,チタン合金は用途に合わせてα相とβ相の割合を変えて製造されています.
機械加工し易いβ相の割合はチタン合金に含まれるニオブ(Nb),タンタル,モリブデン,バナジウムなどのレアメタル元素の割合と熱処理条件によって変化します.しかし,熱処理によってβ相の割合が多くなると同時に,β相中に結晶構造が異なるナノメートルサイズのω相と呼ばれる微細析出相が生じ,チタン合金の強度を低下させます.したがって,ω相の結晶構造を明らかにして,ω相の生成を抑制しつつβ相の割合を増やすために効果的なレアメタルの種類と量を科学的に示すことができれば,必要最小限のレアメタル添加量で優れた軽量高強度チタン合金を低コストで開発する課題を解決できます.
 
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図1 高強度で優れた実用チタン合金を作るためには,β相中に程よい大きさのω相が含まれることが重要です.
 
ところが,このω相はチタン合金の性能を大きく左右するにもかかわらず,サイズが小さく,チタン合金の性能を低下させる効果しかないため,研究の対象となることはあまりありませんでした.特に,数少ないω相に関する研究報告からその結晶構造は頑丈ではなく揺らぎがあることが示唆されていますが,金属材料研究で最も広く使われる構造解析手法である透過電子顕微鏡法は,頑丈ではない結晶構造の解析には向いておらず,得られる情報は限られていました.そのため,ω相の結晶構造についてはその報告から半世紀近く年月を経た現在も,その詳細は明らかではありませんでした.
 
【研究の手法】
蛍光X線ホログラフィーは,特定の元素をX線で狙い撃ちすると発生する光(蛍光X線)を利用して,その元素周辺の原子配列を三次元で可視化する撮像技術です(図2).比較的新しい手法ですが,材料中の添加元素周辺の構造評価に対して,特筆すべき成果を上げてきました.本研究では,蛍光X線ホログラフィーを構造用機械材料であるチタン合金に適用し,ニオブ原子の周りに存在する原子像を再生・可視化しました.実験は,強力なX線が得られる大型放射光施設※6)SPring-8※7)の共用ビームラインBL13XU ならびにBL39XUと,高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリーAR NW10Aで行いました.
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図2 蛍光X線ホログラフィーの原理についての概略図.入射X線が当たるとNb原子から蛍光X線が発生します.発生した蛍光X線のうち,直接検出器に届くものが参照波となり,近くの原子で散乱されてから検出器に届くものが物体波となります.参照波と物体波が干渉することによって形成されるホログラムを検出器で測定します.
 
【得られた成果】
ニオブはβ相を多く含むチタン合金によく含まれるレアメタルで,ニオブ濃度を20%前後にして300℃付近で熱処理すると,微細ω相を含むβ相となることが知られています.本研究では,そうして作製したチタンとニオブからなる合金の単結晶試料に含まれるニオブ原子を放射光施設の強力なX線で狙い撃ちし,ニオブ原子から発生する蛍光X線を利用してニオブ原子近傍の原子配列を可視化しました.
 
ニオブはβ相とω相の両方に含まれるので,β相とω相の原子配列が混ざった状態で可視化されてしまいます.そこで,ω相が,β相の特定の平面に含まれる原子が集団的に揃って少しだけ動くことによって生じる性質を利用すると,β相とω相の原子配列を区別できます.
 
図3は,β相からω相が生じる際の原子の動きに関する従来のモデルを示したものです.β相とω相のいずれに含まれる原子も,黒い水平な直線で示した平面に含まれます.
 
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図3 従来報告されている,チタン合金のβ相からω相が生じる際の代表的な原子の動きの模式図.β相のBCC構造を斜めから見ると,原子はA,B,Cで示した3種類の平面のうちいずれかに含まれます.このうち,BとCの平面に含まれる原子がその中間の平面Mに移動してω相が生じます.
 
したがって,本研究では,その特定の平面と平行に医療で用いられるCTスキャンのように原子像をスライスして原子の存在する場所を明らかにしました.
 
蛍光X線ホログラフィーで再生されたω相の原子位置を調べた結果,図4の右図の通りでした.ニオブ原子から離れた原子は,従来のω相の構造モデルとほぼ一致しました.一方,ニオブ原子に近い平面Cに含まれる原子は,平面Mに移動せず,β相の構造を維持したままでいることがわかりました.
 
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図4 蛍光X線ホログラフィーで明らかになったω相中のニオブ原子近傍の局所原子配列.β相のCの平面に含まれる原子が移動せず,β相のときの原子配列を保っています.
 
これらの結果に基づき,ニオブ原子近傍の局所原子配列をβ相ならびにω相と比較したのが図5です.ω相の構造をとるべき環境にあっても,ニオブ近傍ではβ相の構造に近い原子配列をしていることが明らかになりました.つまり,ニオブを添加することはβ相の割合を増やす効果があることが原子配列から実証されました.
 
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図5: (a) 一般的なβ相,(b) ニオブ原子近傍のω相,(c) 一般的なω相の原子配列.(c)の原子配列をとるべきω相中にもかかわらず,ニオブ原子近傍では原子配列がβ相に近いことが明らかになりました.
 
【今後の展開】
チタン合金にはニオブの他にもタンタルやバナジウムなどのレアメタルが添加されます.これらのレアメタル近傍の原子配列を同様に調査し,ニオブ近傍と比較することによって,最も効果的にβ相を使えるようにできるレアメタルを明らかにします.これによりチタン合金に含まれるレアメタル量の削減と高強度化を両立できるので,チタン合金の用途が今後更に広がると期待できます.また,複数のレアメタルが添加されている場合は,それぞれの元素がチタン合金中で果たす役割が異なる可能性を示します.チタン合金中に含まれるレアメタルの新たな役割が明らかになれば,軽量かつ高強度だけでなく,複数の特徴を有するチタン合金の開発のきっかけになると考えられます.添加元素の周りの特殊な原子配列は,高強度だけではない,様々な機能性を発現する鍵となることから,今後,蛍光X線ホログラフィーによる構造解析は高機能構造材料を研究するためのキー・テクノロジーとなるでしょう.
 
本研究は,科学研究費補助金・新学術領域研究「3D活性サイト科学」(領域代表:大門寛),同・基盤研究(B)22360264,同・挑戦的萌芽研究21654039,ならびに,内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的構造材料」(管理法人SIP)と軽金属奨学会の支援を受けて行われました.
 
書誌情報
雑誌名:Acta Materialia
タイトル:Local atomic structure near an Nb atom in aged β–Ti alloys
著者:T. Yamamoto1, K. Hayashi2, N. Happo3, S. Hosokawa4, H. Tajiri5
所属:1宇都宮大学,2名古屋工業大学,3広島市立大学,4熊本大学,5高輝度光科学研究センター
doi: 10.1016/j.actamat.2017.03.048
 
 
用語説明
1) チタン合金
チタン合金の密度は鉄鋼材料の約半分で軽金属に分類されます.鉄鋼が錆びやすいのに対し,チタン合金は錆びにくい特徴があり,航空機,沿岸部の建造物などに使うのに適しています.また,金属アレルギーを起こす人が少ないので,外科手術で用いる人工骨などにも用いられています.
 
2) レアメタル
地球上で人類が利用できる資源は地表付近のごく限られた深さまでに埋もれています.我々が主に用いている構造材料に含まれる金属元素のうち,地表に多く含まれるものを多い順に並べると,アルミニウム,鉄,そして,チタンです.それ以外の金属元素のうち,特に含有量が低いものをレアメタルと呼びます.レアメタルは「金属材料のスパイス」と言うべき元素で,ごく微量を添加するだけで金属材料の性能を飛躍的に向上させます.ただし,レアメタルは産地が世界的に限られているため国際的な獲得競争が激しくなっています.
 
3) β相
純度が100%のチタンは室温でα相と呼ばれる六方最密充填構造(HCP)に原子が配列しています.同じ原子配列(結晶構造)をもつチタン合金は機械加工が難しいため工業的に扱いにくい材料です.一方,チタンを882℃以上の高温に加熱すると体心立方構造(BCC)に原子が配列したβ相となります.β相のチタン合金は機械加工が容易です.このβ相のチタン合金を室温で利用できるようにするために,レアメタルを加えたり,特殊な熱処理を行ったりする必要があります.
(なお,α相やβ相が指す結晶構造は金属の種類によって異なります.例えば鉄のα相は体心立方構造です.)
 
4) ω相
β相のチタン合金に特殊な熱処理を行うと,原子配列の一部が一定の法則に従って,ごく短時間に集団で僅かに場所を移動します.原子の集団移動が生じたナノメートル級の微小領域はβ相とは異なる原子配列になっているため,ω相と呼んでいます.この微小なω相が含まれることで,本来は高温でのみ存在し得るβ相を室温でも使えるようになります.一方,ω相は機械加工性が低いので,チタン合金の大部分がβ相であってもその機械加工性を大きく低下させます.したがって,チタン合金中のβ相に含まれるω相を用途に応じて最適な割合にすることが必要です.
 
5) 蛍光X線ホログラフィー
通常の写真とは異なり,ホログラフィーは物体の立体像を記録・再生することのできる技術です.偽造防止のため,一万円札やクレジットカードに印刷してあり,社会にも広く普及している技術です.原理について下図に示しますが,通常の光学ホログラフィーの場合には,レーザーなどの干渉性の良い光源を用い,ある散乱物(下図ではハート)に照射します.その散乱物によって光は散乱され物体波となります.物体波の位相(波の山・谷の位置に関する情報)は,散乱体の奥行きに関する情報が含まれていますが,物体波そのものを観測しただけでは,位相の情報は失われてしまいます.ホログラフィーでは位相を記録するために,光源から出る光(参照波)を物体波と干渉させます.その干渉パターンを記録したものがホログラムとなります.散乱物を再生させる場合には,再生光をホログラムの反対側から当てれば良いのです.
 
 
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蛍光X線ホログラフィーも,基本的には光学ホログラフィーと同じ原理を用いています.蛍光X線とは,大きなエネルギーを原子に吸収させると放出されるX線のことで,それぞれの元素に固有の波長を持ちます.図に示してあるように,ある原子から放出された蛍光X線は近くの原子によって散乱され,それが物体波となります.物体波は蛍光X線発生原子からの参照波と干渉しホログラムを形成します.そのホログラムパターンは,X線カメラで観測できます.蛍光X線ホログラフィーにおける像の再生では,光学ホログラフィーと同様にホログラムに参照波を照射しても再生像が小さすぎて人間の目で見ることができないので,計算機を用いて行います.本手法は特に,単結晶中の微量不純物元素周りの局所原子配列を三次元で直接評価するのに有効であることが実証されています.
 
 
6) 放射光施設
放射光とは,光が進むのとほぼ等しい速度まで加速した電子の進行方向を,磁場によって曲げたときに発生する強力な光・電磁波・X線のことを呼びます.国内では兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高クラスの放射光を生み出すSPring-8や,茨城県のつくば研究学園都市にある高エネルギー加速器研究機構のフォトンファクトリーなどがあります.
 
7) 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高クラスの放射光を生み出す施設.SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来します.SPring-8では80億電子ボルト(8 GeV)のエネルギーを持つ電子の進行方向を磁場で曲げて強力な放射光を発生させます.

 

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