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時事通信社「内外教育」インタビュー

<あすの教育> 石田朋靖宇都宮大学学長に聞く
 
「実学の伝統」受け継ぐ新学部設立
 
   1949年の創立以降、地域に密着した実践的な教育や研究を続け、社会と学問のつながりを強く重視した「実学の伝統」が今も受け継がれている宇都宮大学(以下、宇大)。2016年春には新学部として、地域そのものを総合的に捉え、さまざまな課題に対応できるよう文理融合型の「実学」に取り組む「地域デザイン科学部」を設立した。15年4月の学長就任前から設立準備に携わってきた石田朋靖学長に、学部の概要や狙い、設立の背景を中心に話を聞いた。
 
 地域課題を解決する人材を育成
 
― 「地域デザイン科学部」の概要やカリキュラムの特徴は。
 
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   同学部は文理融合で、文系の「コミュニティデザイン」(定員50人)、理系の「建築都市デザイン」(同50人)、「社会基盤デザイン」(同40人)の3学科から成る。魅力ある地域をつくるため地域の課題を理解し、各地域の資源と特性を生かしたまちづくりを支える人材の育成を狙いとしている。
   専門科目はすべてアクティブ・ラーニング。受け身で知識を得るだけでなく、主体的・能動的な学びを強化し、 学生自身が考えて地域をデザインする力を養っていく。具体的には、現場に赴き実務者と意見を交わしたり、 首長から地域の課題を聞きディスカッションしたりして、実践力や地域対応力を鍛えていくなど、「実学」を重視したものになっている。
   ある程度専門性を備えた3年生の時点で行うのが、通年の「地域プロジェクト演習」。3学科から2人ずつ計6人の学科横断グループを組み、グループごとに担当する地域や民間企業を割り当てる。学生は担当地域・企業に何度も足を運び、住民や関係者から地域の課題を聴き、連携して何ができるのかを議論する。最終的には、自分たちが設定した課題解決法を首長らの前でプレゼンテーションする。コミュニケーションカや調査・分析カ、プレゼンカの養成に加え、チームとして動く協働力の磨き上げにもつながるほか、専門の違う各学科のメンバーの考え方に触れる機会にもなり、将来いろいろな職場で生きてくる。
   地域の抱える課題はそれぞれ違うが、我々が教えるのは「どうやって地域の課題を見つけるか」や「解決に向けてどのようにアプローチするか」「住民と話し合いながら何を提案していくか」「データをどう集め分析していくか」といった方法論。それは、どの地域を対象にしても違いはない。地域デザイン科学部は、栃木県というフィールドを通して、どの地域でも普遍的に使える手法を学ぶことのできる場だと考えている。栃木県はすごく面白い県。工業や農業、畜産が充実しているし、中核都市、観光地がある一方で限界集落に近い地域もある。多様性に富んでいて全国の縮図のようなところがあり、ここで学べるというのはよい経験になる。 卒業生には、全国のさまざまな地域で学びを生かしてもらい、地域づくりのプロとして活躍してほしいと思っている。
 
―  新学部設立の背景は。
 
   少子高齢化や人口減少、経済の疲弊など社会を取り巻く環境が厳しくなる中、「宇大は地域を元気にするエンジンでありたい」との思いがあった。「地域に学び、地域に返す、地域と大学の支え合い」を大切にするというのが大学のモットーでもある。地域を元気にするためには、地域経済の活性化が大事。イチゴ収穫ロボットや光工学など、地域の産業と結び付いた研究を行う工学部や農学部を中心に、既存学部の連携により教育や芸術など異分野との融合も含め、栃木らしいイノベーションを創出していく必要があると考えた。
   一方で宇大には社会科学系の学部がなく、その分野の強化も必要と考えた。ただ、現実の課題に対応し、地域と強く密着した学問体系を考えたとき、社会科学系だけではなく、文系理系の枠を超えて地域そのものを総合的に捉え、魅力を引き出し、持続性を支える「地域対象学」の必要性に思い至り、重点戦略のコアに位置付けた。新学部は「変わっていく宇大」「地域に貢献する宇大」の象徴でもあり、15年4月に学長になってから「新学部をきちんと形作っていく」という気持ちがより大きくなった。全国にモデルケースのある工学部や農学部とは違い、今までにないタイプの学部だったので、新学部を担当する教員との議論を重ねながら準備を進めた。設立前には県下の全市町の首長を訪問し、学びの内容を説明して、フィールドワーク時の協力などをお願いして回った。
 
 全員のベクトル合わせて連携を
 
― 今後力を入れていきたい取り組みは。
 
   今後の財政状況を考えると、今までのように学問領域を独立して維持するのが難しくなってくるので、新しい発想で融合し、連携して新しい分野を作り合っていく、支え合っていくということが求められてくる。そのため、19年をめどに、大学院の大幅な改組に取り組んでいる。従来のように、学部の上に同分野の大学院がある「煙突」型の縦割り組織ではなく、分野を融合した全学的な改組につなげていければと思っている。
   改組をはじめ、いろいろなことが変わっていく中で重要になってくるのは、学生や教職員をはじめとした構成員同士の連携だ。宇大は教員が約350人、学生も1学年1000人とコンパクトな大学で、お互いが顔の見える距離にある。教員は自分の研究室を持って「一国一城の主」として独立し、自由な研究を進めていく必要があるが、教育や運営という意味では同じ方向を向いて連携していく必要がある。ベクトル合わせをするためのコミュニケーションの一環として、就任以来各学科を回り、40代以下の若手教員との意見交換を二十数回行った。自分の考えを述べた上で、教員の考えを聞く場としており、「身近な学長になりたいので、いつでも何かあったら相談してほしい」と伝えている。同様の趣旨で、若手事務職員を対象とした「学長ランチタイム」や学生対象の「学長ティータイム」なども数十回実施してきた。接して意見を交わすことで、学長を近しく思ってもらい、少しでもベクトルを合わせていければと考えている。
 
― 教育における信条は。
 
   大切にしているのは、「問題は研究室で起きているのではない、現場で起きている」ということ。ずっと現場主義で研究をしてきたので、現場に行き、課題を設定し、観測や調査をし、持ち帰って実験するということを繰り返していた。まさに宇大の伝統の「実学」の精神そのもの。もう―つは「Just do it !」やらなきゃ何も進まない。失敗を恐れず取りあえずやってみろというようなことを言っている。また、「最も学生を大切に育てる大学」「新たな知を創造し続ける大学」「最も地域から信頼される大学」を目指すことが、宇大学長としての信条だ。
 
 
【横顔】1984年東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。92年から宇都宮大学に籍を置き、農学部教授、農学部長、理事・副学長などを経て2015年4月から現職。これまでに世界5大陸30カ国以上を訪問したという旅行好きだが「学長になってからはなかなか難しい」と笑う。代わりに休日近場への旅行を兼ねたドライブを楽しんでおり、年間1万5000キロを走るという。
(加古雅樹 = 宇都宮支局)
   時事通信社「内外教育」第655号より転載