平成17年度 学位記授与式 式辞

平成18年3月24日
宇都宮大学学長 菅野 長右ェ門


  桜のつぼみもようやくふくらみ始めた今日、ご来賓の方々、定年退職される教員の方々、並びにご家族の皆さん方のご臨席のもとに、平成17年度の国立大学法人宇都宮大学の学位記授与式を挙行できることを、卒業生・修了生の皆さんとともに喜びたいと思います。

  本年度は、国際学部、教育学部、工学部および農学部を卒業することにより、学士の学位記を授与される1007名、大学院国際学研究科、教育学研究科、農学研究科の修士課程及び工学研究科の博士前期課程を修了することにより、修士の学位記を授与される356名、大学院工学研究科の博士後期課程を修了することにより、博士の学位記を授与される17名及び論文審査により博士の学位記を授与される2名、合わせて1380名の授与式を挙行することになりました。また、この中には、海外からの留学生が、学部34名、修士29名、博士2名、合わせて65名が含まれています。加えて、今年度は、「早期卒業制度」の適用により、3年で学部を卒業し、本学大学院に進学する学生が出ましたことを大変喜ばしく思っています。
  さらに、3月17日には、宇都宮大学、茨城大学、東京農工大学で構成している東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程において、本学の教員の指導を受けた13名と論文審査による3名に博士の学位記が授与されましたことを、あわせてご報告いたします。
  学士、修士、博士の学位を修得された皆さん、誠におめでとうございます。

  宇都宮大学を学びの場として選んだ皆さんは、4年、6年さらには9年の間、知的にも、体力的にも最も活力に満ちた人生の時期を、本学において過ごし、多くの試練を乗り越えて、それぞれの成果を上げ、このたび目出度く学位を修得されました。このことは、一人ひとりの研鑽があってのことですが、同時に、皆さんを経済的にも、精神的にも支えてこられ、この日を心待ちにされていた家族あってのことで、ご家族の皆さまには、心からお祝い申し上げるとともに、これまでのご苦労に感謝の意を表します。
  さらには、共に学んだ仲間の励まし、多くの教職員から直接間接にいただいた支援に、感謝の念を深く心に留め、これからの人生を歩まれることを念願いたします。
  また、留学生の皆さんは、故国を離れ、生活習慣、気候風土、言葉の異なる宇都宮の地において、夢と希望を抱いて勉学と研究に励み、本日、学位記を手にされたことを心からお喜び申し上げます。今後も母国と日本の、そして宇都宮大学との交流に努めて頂けることを希望します。

  本日、目出度く、学位記を得て、社会の第一線で活躍することになる皆さんに対しましては、大学で学んだ学問の実社会での応用に心がけて頂きたいことはもちろんですが、特に留意していただきたいことが二つあります。それは職業人としての安全・安心に関する倫理観を確立すること、そして皆さん自身の健康を保持・向上に関することです。
  倫理観を取り上げましたのは、ここ数年、人々を不安がらせる出来事が多数生じているからです。不安の反意語は安心であります。安心は主観的であり、心理的・感情的表現でありますが、その不安を解消できるのは安全です。この安全を保証するものは客観的で、科学的根拠のある安全です。安全の根拠は必ずしも絶対的なものではありませんが、安全は人々の不安を軽減し、社会に安心をもたらします。
  ここで強調したいのは、合理的・科学的に確保されるはずの安全が、残念ながら、高等教育を受けた職業人の倫理観の欠如によって、崩されて、不安が引き起こされていることです。

  まず、安全への不信は、日常、国民の口に入る食品に強く表れました。このことは、平成14年の食品購入時における消費者の意識・関心の調査では、おいしさや価格よりも安全性を意識する人が64パーセントも占めたという数値に表れています。
  さらに、この1・2年、経営者と従業員との間での倫理観の欠如によってもたらされたものがあります。特に,制限速度をはるかに超えて電車を走らされた運転者による宝塚線での脱線事故や、一級建築士がビルデングの耐震強度を偽装した事件とその不正を見破れなかった設計事務所や民間検査会社のありようは典型的でした。その他にも製品やサービスの品質と安全性に関わる事故、個人情報や顧客情報の漏洩・紛失、巨額な粉飾決算、そして虚偽の取材記事の掲載や放映、科学論文の捏造、等々の事件は、専門職業人の倫理観の欠如が原因となっています。背後には、戦後類例のない躍進を誇った日本経済ですが、そのバブルが破綻した後の企業の効率性や経済性と、成果主義とのハザマで職業人としての誇り・責任を捨てざるを得なかったかもしれません。
  ここで、これまでに皆さんが身につけたモラルの上に、さらに「倫理」を構築して戴きたい、と申し上げます。倫理観は、人類が数多くの試行錯誤のすえに築き挙げてきた道徳的規範が伝承されてきたものです。世の中で必要な仕組みや技術についての理解や信頼は、それぞれの分野の専門家に委ねられております。専門家を養成している大学が、それぞれの分野ごとに、職業人としての倫理観に関する教育を授けてきたつもりですが、さらに専門職固有の倫理があり、しかもそれぞれの組織でも多少異なります。
  皆さんは、職業人としての誇りや責任が問われるようになります。技術倫理・職業倫理・経営倫理は自らの身を守るためにも必要なものであり、今後、こうした倫理観を自身で構築し、確立するよう、努力されることを期待します。

  第二のメッセージとして、「皆さん、今後とも自身の健康には、自身で最大の配慮をしてください」。「健康を失って、初めて健康のありがたさを知る」といわれますように,人間の資本は健康な体です。健康を保持するには、日常の「食」すなわち、食べることへの配慮が必須です。
  食品科学を専門とする立場から申し上げますと、食品の栄養素や成分は、生体の維持のために、短期的かつ長期的に果たす機能を有し、生命の維持に不可欠であり、同時に、体調のリズムを調節し、免疫調節機能を高めることにより生体を防御する機能を持っています。
  日本人は、1960年頃から、これまでの米、野菜、豆、魚の炭水化物を中心にしたものに、適量の乳、肉、卵のタンパク質と脂肪を取り入れて、世界的に稀な日本独特の食生活パターンを構築してきました。世界の多くの国々では、経済的収入が増すと摂取カロリーも増大してきました。ところが、日本は経済発展を遂げましたが、日本人の摂取カロリーはここ40年間に2500から2700キロカロリーに上ったに過ぎず、栄養バランスもよく、成人病になりにくい食生活パターンになっています。アメリカ政府は、莫大な金と時間をかけて、日本の食生活を徹底的に分析・解析して、アメリカ人に適合する食事バランスガイドを完成しました。これほど、日本人の食生活パターンは優れています。このことを誇りに思って下さい。
  そこで、皆さん。健康を保持するには、難しいことを考える必要はなく、まず、1)朝食をとること、2)偏食をしないこと、3)骨を作るカルシウムに富み、安らぎ感を与える牛乳は必ず飲むこと、4)赤・緑・黄色の野菜を含めてできるだけ多くの種類の食材を、少量食べること、5)食塩や脂肪は控えめにとることの5つです。そしてその上、6)適度な運動を欠かさないこと、に心がけてください。

  最後になりますが、宇都宮大学も、平成16年4月より、国立大学から国立大学法人に移行することになりました。それにともない、大学は個性と特色を発展させるとともに、自己の責任において経営を行うことが強く要請されています。これは決して容易な道ではありませんが、大学に対する社会の期待が高まっている今日、避けて通れない道です。
  宇都宮大学が卒業生の皆さんにとっていつまでも誇るに足る大学であり続けるよう、また留学生の皆さんに取りましても、心の故郷であり続けるよう、私ども教職員一同、これまでの意識を一層あらため、一段と努力して参ります。
  今日、宇都宮大学を巣立つ皆さんも、同窓生として、母校のさらなる発展のための強力なサポーターになって戴きたいことを心よりお願い致します。
  次代を担う皆さんが、高邁な大志を抱き、逞しく活躍することを願って、式辞といたします。
 

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